状況が裂いた部屋

旅行と読書と生活

『ドキュメント72時間』私的傑作選

 

NHKの『ドキュメント72時間』にはまり、最近毎日2本ずつ見ている。本当に面白い。AmazonプライムNHKオンデマンドに加入して、2ヶ月ほどかけて50本以上観た。アマプラで視聴可能な回は250本ほどあるので全制覇はまだ遠いが、特に面白かった回の個人的ランキング。

 

1位 ep.141「阿蘇・ライダーたちの夏 10年に一度の撮影会」

2位 ep.77「ゲストハウス 1泊3千円のオアシス」

3位 ep.10「オン・ザ・ロード 国道16号の"幸福論"」

4位 ep.54「香港 チョンキンマンションへようこそ」

5位 ep.32「長崎 お盆はド派手に花火屋で」

 

 

●ep.141「阿蘇・ライダーたちの夏 10年に一度の撮影会」

10年に一度、熊本の阿蘇にあるドライブインに、全国からバイク乗りが集まるイベントを取材した回。なんてすごいイベントなんだろうか。実はこの回を観たいがために、NHKオンデマンドに登録した。

ひとりの人間の人生の中で10年間は大きい。前回一人でやってきた青年が、今回は結婚して子供が産まれ、3人で写真に収まっていたりする。

30年前から参加しているおじさんは、ずっと同じバイク、毎回同じジャケットで参加している。1979年の第一回から皆勤賞で参加しているというおじいちゃんもいた。

10年前の前回にたった一回だけこの場で会った、列の前後に並んで知り合った二人の男性が、10年ぶりに再会している感動的なシーンもあった。このシチュエーションがあまりに良くて、書いている小説に少し使えないかな、と考えている。あまりにドラマチックだ。取材スタッフからの「どんな10年でした?」という問いに、参加者はみんな「あっという間でしたね」という。バイクで繋がっている人たちが、毎回同じ場所に集まって人生の中のほんの一瞬交わる。そんな場があることが羨ましい。

一番印象的だったのが、一昨年、大動脈解離で死にかけた46歳の方が言った「写真集ができれば、この時ここにいたって証拠になる。このときまだ生きてたって。そんな感じで参加してます」という台詞だ。

駐車場の出口から帰路に着くライダーたちを、スタッフたちは全力で手を振り送り出す。この取材は2019年のもので、次回は2029年とのこと。これからの10年で、みんなそれぞれの人生を生きて、また一瞬だけ集まって、そんなことを考えるとなんだか切なくなる。大きな人間のサイクルとか、生きることとか、そんなことに思いを馳せてしまい、敬虔な気持ちになった。何故か昔の『彼女が死んじゃった。』というドラマのことを思い出した。人の一生は短く、その中でも人と人が出会い、楽しい時間を共有する時間は本当に短いけれど、ある時にはそれが永遠になる。

 

 

●ep.32「長崎 お盆はド派手に花火屋で」

この風習は知らなかった。長崎では、家族が亡くなると初盆に爆竹と花火を大量に用意して、お墓や街中で鳴らしまくって派手に送り出すらしい。なんて楽しい葬式だろうか。長崎の花火屋に8月13日から16日まで密着する回。みんな数万円の爆竹を書い、箱ごと点火してとんでもない破裂音をさせている。40万円分の爆竹を買うイケオジが万札を見せながら「破裂して、消えてなくなるお金です」と言っていた。

番組後半、「佐田家」という巨大な看板を掲げた精霊船を取材していると、主がさだまさしの弟であることが判明する。母が90歳で亡くなり、その初盆らしい。その人が言った「長崎人は、亡くなった時とお盆で二回お別れできるんでね、幸せですよね」と語っていたのが良かった。

8月15日の午後5時から、長崎のそこらじゅうで爆竹が鳴りがじめる。精霊船が街を練り歩き、この1年で亡くなった人を送る。老人の写真を掲げた船が多いが、中には若い人もいる。とても小さな、犬の写真がついた船もあった。

この街の人間は自分が長崎人であることに強い誇りを持っているらしい。番組中「長崎人だから」「長崎の男と結婚したら最後はこうなる」「東京の人にはわからないだろう」と言った台詞を何度も聞く。

人が死んで、いなくなるということについて考えさせられた。あとこの回は仲里依紗のナレーションなのだが、自然ですごく良かった。アニメ版『時をかける少女』の女子高生役の声が好きだったけど、ナレーションの役割の声もとても良かった。柔らかくて、真面目なトーンでも朗らかな感じがする。

 

 

何故ドキュメンタリー鑑賞にハマったのか。1月頃に『ドキュメント』というタイトルで掌編小説を書いた。いかれた小説家に密着取材する男の話なんだけれど、ストーリーを思いついたものの熱心にドキュメンタリーを観たことがないため描写出来なかった。唯一ちゃんと観たことがあるのが『プロフェッショナル』の庵野秀明の回、というひどい状態だったため、これを機にちゃんと観るか…とオンデマンドに加入した。観て正解だったと思う。『ドキュメント72時間』は人ではなく場所にフォーカスするので、登場するのは一般の人々だ。伝記が出たり、wikipediaのページが作られたりすることはない、普通の人々の話。それがなんとも心地良かった。

2022年に自分が読んだ本の中のベスト、髙村薫の『レディ・ジョーカー』が面白く、読んでる最中に絶対元ネタがあるんだろうな、と感じた(グリコ・森永事件だった)。他にも『果てしなき渇き』を読んだときも「きっとあの事件から着想してるな」とか気づくことがあり、事実を下敷きにしたノンフィクションの説得力について考えていた。ゴールデンカムイとか、キングダムとか、大河ドラマなんか全部そうだけれど、史実にある程度沿っていて、それぞれの歴史上の出来事で「あったかもしれない」事件を描くことの面白さや説得力に惹かれる。創作みたいなドラマチックな現実はそこらじゅうにある。ドキュメンタリーを観まくることで、そういったネタを蓄積したい。

あと、単純に世の中には本当に様々な人間がいて、全ての人間が事情を抱えて生きている、ことを知れたのは、どんな物語であっても「もしかしたら起こり得るかもしれない」と自信を持って書き切ることに繋がる。どんな物語も嘘とは言い切れない。事情は複雑なのだ。

1本あたり30分の尺で、1回ごとの撮影スタッフも少数のようなので、制作陣も割と自由に作っている感じが良い。Twitter上で有名な「レンタルなんもしない人」の回とかあるけれど、きっと職員が「あの人に密着したい」って思いついたアイデアが通っただけな気がする。そういう個人の関心から、一人の人生の3日間の出来事が記録されるのだから面白い。NHKのドキュメンタリーは本当に質が高い。取材対象も撮り方も、流石だよなと毎回思う。『ファミリーヒストリー』も本当に面白い。ドキュメンタリーよりバラエティーに落とし込んでいるが『ねほりん ぱほりん』も気に入ってからよく観る。あとは「新 プロジェクトX」がとても楽しみだ。

 

晴天の価値

f:id:ngcmw93:20240218115733j:image2月中旬に出張で千葉へ行った。5日間の滞在中はずっと快晴で、気温は20℃に迫る春のような暖かさだった。仕事は朝から晩まで現場を走り回る過酷なもので、身体的にも精神的にも追い込まれた。毎朝、京葉線から見える美しい景色を眺めて正気を保っていた。太平洋へ燦々と日が注ぐ様子や、電車と並行して走る高速道路、倉庫や工場ばかりの街並みはとても眩しく見える。どういう訳か整然とした区画の街を見ると癒される。団地や港の倉庫が立ち並ぶ京葉線沿いの風景はなんとも言えず良いものだった。

 

30年近く新潟に住んでいるため、冬は常に天気が悪いことに慣れてしまっている。晴天の空をみることなんて稀だし、だから雲ひとつない突き抜けた快晴の日は本当に気分が良い。仕事も捗るし一日中機嫌良く過ごせる。

時々関東に出張に出るたびに快晴で、毎度その気分を味わえる。以前小豆島へ旅行に行った時も海と空が感動するほど青かった。長野の松本市とかも行くたびに晴天率が高い。毎日この天気の中で暮らせたらどれほど良いだろう。というか、ずっと新潟で暮らしているせいで、無自覚のうちに天気でどれだけ損しているのだろう。


自分は他の県に転勤する機会はまず無いし、このまま仕事を続ける限り冬の長いこの街で暮らすのだと思う。今更転職する気もないし、この街が嫌いな訳ではないので。ただ定年を迎えたタイミングとかで、別の街に移住することは考えてもいいかもしれない。太平洋側の田舎とか、瀬戸内海の島とかで、猫でも構いながらのんびり老後を過ごしたい。


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『出会って4光年で合体』

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とんでもなく面白い。久しぶりに漫画を一気読みした。漫画の体裁だが小説的な要素もあり、382ページの分量をしっかりと読み切るのに半日を要した。凄まじい情報量の、とても重厚な物語だった。中学生の性欲、完璧な女の子、狐憑き、島の風習と伝承、長閑な田舎の風情、歪な管理社会、超伝導量子コンピューターおばあちゃん、素因数分解、不気味な空気、何かを忘れている感覚、おまじない、狐と狸。そしてアナルビーズ。登場するもの全てが意味を持ち、点と点が繋がり、田舎の島から4光年先へ物語が跳躍する。このカタルシスは一気に読まないと得られなかったと思うし、一気に読ませる絵の上手さと予想もつかない展開が全編に詰め込まれている。

特に好きなエピソードは、主人公のクラスメートの母親(作家)が急に活動家になり、猪のお面を被った過激派として7年活動後島に帰還し、30万字のエログロ小説を電子書籍で出版するものの発禁になる、という件だった。全然本筋に関係ない人と思いきや、彼女は物語の後半にキーマンとして再登場する。

どこまでも壮大なスケールと、痛い切なさがあった。科学もオカルトもフィクションもノンフィクションも、面白さを作るひとつの要素になっていた。途方もないSF作品だったし、純愛もののエロマンガでもあった。伊藤計劃円城塔も野崎まども全て飲み込み、物語に混ぜ合わされていた。後半は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』だった。どうやってこんな物語を思いついて、書こうと思い、書き切れたのか想像もつかない。馬鹿馬鹿しいほど壮大な話を読むたびに、投げ出さずにそれを形にする胆力に打ちのめされる。傑作をものにするとはこういうことなんだろう。

全編に散りばめられているネタのサンプリング元もわかるものとわからないものがあった。クラシックなSFをちゃんと読もうと思う。

仕事に疲れた土曜の朝、荒れ果てた部屋のちゃぶ台でこれを読み始め、気づいたら夕方だった。こんなに救われた気分になるのはいつ振りだろうか。そういえば自分も面白い話を書きたかったんだよな、と思い出した。

2023年良かったもの

 

・FROLIC A HOLIC

3月。武道館1日目を配信で観た。演劇、コント、ライブ、トークなんでもありのエンタメとの触れ込みだったが本当に全部ごちゃ混ぜで完成された舞台で凄かった。
佐倉綾音が演じるアイドルキャラ(ラブちゃん)が馬鹿みたいな台詞を叫び、それをDJ松永が即座にサンプリングしてDJする、という件が良かった。シンプルにかっこいい。佐久間信行とcreepy nutsのラジオコーナーがリアルと虚構(コント)の両方いけてて凄い、こんなやり方あるのか。

一番のハイライトはR指定と"ラブちゃん"が飲みに行く話のところだろうか。説教されるうだつの上がらないラッパー役。からの菅田将暉抜き「サントラ」。サントラはそこまで好きではなかったのに、この時は本当に良い曲だと感じた。あとベレー帽に丸メガネの佐倉綾音が最高に可愛かった。あとは後半、満を持して登場した若林がやりたい放題やるのが面白かった。

 

WBC

準決勝のメキシコ戦、これまで観た試合の中で一番興奮した。相手の好投(エンゼルスのサンドバル)もありなかなか点を取れない焦れた状況から、7回に吉田の3ランで同点、また突き放されて2点差、そして9回の大谷と吉田の出塁からの村上のサヨナラ。劇的な試合で何度も叫んだ。野球の醍醐味の全てが詰まった試合だ。決勝のラストイニング、クローザー大谷vsトラウトの対決は永遠に語り継がれるだろう。映画も結構良かった。

今年は例年以上に野球へのモチベがあったので、5月にはハードオフエコスタジアムで巨人対DeNA戦を観戦した。先発は戸郷対バウアー。投手戦になるかと思いきや5本のホームランが飛び出す派手な試合となった。2-9で巨人の勝利。やはり点が入る試合はエンタメ性が高い。最高に楽しめた。

 

グリッドマンユニバース

2018年のベストアニメであり、キルラキルやプロメアを超えて最高に面白かった「グリッドマン」の劇場版。素晴らしい出来だった。ありがとうTRIGGER。正直マルチバースの細かい設定は分からなかったがそんなの問題にならないほど楽しめた。ラストの告白はストレートで、そこも良かった。SFもマシンも世界を救う話も大団円で、王道のラブストーリーが全部まとめて締める。美しい終わり方だ。しばらく余韻に浸っていた。個人的に楽しすぎた2018年を思い出して少しナーバスになるほどだった。

 

・走ること

1月の箱根駅伝を観て思い立ち、ランニングを始めた。3月頃から週1回ほど走るようになり、4月には晴れた日は毎朝走った。そして5月に佐渡トキマラソン、10月には新潟シティマラソンの10キロの部に出場。そこそこ楽しく走り切れたので次はハーフマラソンに挑む予定。文フリに出続けているのもそうだが、目標(締切)を設定して、やらなければならない状況に追い込まないと全く動かない性格なため、数ヶ月先の自分に期待をかけ続けたい。マラソンの翌日は筋肉痛がひどいので土曜開催を希望する。

 

・登山

身体を動かすという点で言えば今年は3回登山した。一番良かったのは福島の磐梯山。霧がやや濃く、頂上からの景色はいまひとつだった。しかし七合目あたりの林道を歩いた時、一瞬雲の隙間から筋のように光が差した瞬間が神々しいほど美しかった。あと山頂近くの山小屋で食べたきのこ汁とおにぎりが美味くて沁みた。来年こそ富士山に挑戦したい。とりあえず箱根に旅行して綺麗な富士山を望んでモチベーションを上げたい。

 

・文フリ

11月の文フリ東京に2年連続の出展。新作のエッセイ本を持って行った。結局新作はあまり売れなかったが香港旅行記は手持ち分を全て売り切った。文フリに間に合わせる、という締め切りを設定することで書くモチベーションになるので良い。来年はビックサイトに会場が変わるとのことで、また何か作って出たい。

 

・観た映画


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旧作も含めると30本観たが50は観たかった。『レザボア・ドッグス』が2024年1月に30周年記念リマスター上映されるので絶対に観る。

 

・1年のまとめ

コロナ禍がようやく終わり、平穏さが戻ってきたと感じる(この文章を書いている今は地震で大事になっているが)。あとTwitterがめちゃくちゃになったりしている。最近はネットの治安がどんどん悪くなっている気がする。それでも自分は相変わらずSNSは割と見てしまっている。

自分に関して。30歳になってしまった。まだ実感はないが、周りの同級生も当然ながら30歳になっており、まあそういうものかと普通に受け入れている。

最近意識が向いているのは、身体や精神を健康に保つこと。年寄りじみているが人生において非常に重要だ。料理をしたり、走ったりすることはやはり身体に良い。自分の身体に直接還元されることは、ダイレクトに良さが感じられていいな、と思う。何というか、即効性の達成感が得られる。ひとりで完結するところも良い。美味しい、とか、疲れてぐっすり眠れた、とか。気持ちよく生きていたい。

そして改めて思うこと。社会人になって一番大事なスキルは、どんな時でも自分の機嫌を自分で取ることだ。音楽やラジオを聴きながらの散歩、漫画や小説への没頭、車で隣街の銭湯に行くこと。そして時々3〜4日は住む街を離れて遠出して、日常生活から逃避すること。2024年は久々に海外へ行きたい。

 

2023年の創作

大雑把に分けると一年の前半はバンド関係、後半は執筆で成果物ができた。

 

今年作った、自分が関わった作品

・『sidewalk/bluepoint』


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drama-niigata.bandcamp.com

随分と前、2019年頃に録音した音源を2曲入りシングルとしてリリースした。時間がかかったが、とにかく発表できてよかった。曲としてもちろん良い曲だけれど、それ以上に出せたことに意味があるものだった。リリースできたことでようやくバンドが次に進むことができた。


・『sidewalk』MV


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MVを制作。これについては別で記事を書いた。無料のソフトを使って、1か月半ほどかけてコツコツ作業して完成した。映像も気に入っているが、ずっと撮ったまま温めていた映像をまとめて、作品として完成させることができたのが大きい。

 

・エッセイ本『20-30』

1か月書き続けてなんとか文フリ前に完成した本。エッセイ本を書くのは初めてだった。いま読み返すと面白い部分と「なんだこれ...」となる文章が半々くらい。でも書いてよかった。1項目ごとに500~600字くらいの文章で書いたが、「話題の提示→それにまつわるエピソード」の構成が「話題の提示→こんなことがありました」くらいの半端な導入で終わっている項目があり、何の深みもない。別にオチはなくても最後までちゃんと書けよ!と思う。


この他、自分が参加した座談会が本になったり、来年発行予定の雑誌に記事を書いたり、ゆっくりとしたペースでも創作に関わることが出来ていてありがたい。あとは人と会って話すことの大事さを身に沁みて感じた。制作したものの感想を聞けるとモチベーションが上がる。締切がないと何も書けないので、人から締切を設定されるとやる気が出る。

趣味の成果物ができるのは嬉しいことだ。形として残るものがあると、こうして個人で振り返れるし、人と共有することができる。もっと文章を書くことに熱中したい。時間が足りない。

 

・いま書いているもの

ニュージーランド旅行記(仮)』

『本をつくる(仮)』

2本並行して原稿を書いているが、進捗がかなり危うい。特に旅行記のほうは5万字を超える予定なので本当に果てしない。モチベーションを保ち続けて、毎日少しずつ作業して1作仕上げる、そんな習慣を身につけないといけない。2024年のテーマは「持続可能な執筆」、これに尽きる。

 

文学フリマ東京37を振り返る

f:id:ngcmw93:20231116071502j:image楽しかった。今年も参加できてよかった。

まず、新作を出せたのがよかった。秋の文フリに申し込んではいたもののモチベーションが上がらず、既存の本を売るしかないか…と思っていた。しかし9月半ばに書き始めたところ1ヶ月で完成した。締め切りがないと何一つ頑張れない人間なのでゴールを決めておくことは大事だ。出展3日前に納品された。

f:id:ngcmw93:20231116124953j:image最低でも10部売りたいな、と思っていたけれど会場では9部しか売れなかった。しかし打ち上げで友人が2冊買ってくれたので11冊に。ありがたい。新作のエッセイはあまり売れず、旅行記が少し売れた。旅行記ブースで出展した影響もあると思う。来年以降は別ゾーンで出ることも検討したい。しかし周辺の旅行好きの方と喋るのは楽しいし居心地がいいので悩みどころだ。今回も新たに知り合う人がいて参加した意味はあったと思う。

反省点は宣伝不足とブース看板を作っていかなかった点。鞄に入っていたチラシの裏側に即席で位置名を書いたが無いよりマシな程度。もっとブース全体を工夫したい。机の上に立体的な棚を作ったり、宣伝用のボードを置くことが効果的だとわかった。目立つし、何より立ち読みがしやすい。来場者の目線に立つと、筆者と1mもない距離で向き合いながらその目の前で作品を読むのは結構やりづらいと思う。圧を感じる。ブースに立ち寄る人は作者に向き合うのではなく本に向き合いたいはず。次回は宣伝ボードの裏とかにひっそりと座っていることにする。

 

f:id:ngcmw93:20231116073215j:image新作のエッセイ本について。

30歳の節目を迎えるにあたって、頭の中を整理する目的で書いた。まずはiPhoneのメモ帳へ思いつくままにテーマを書き出し、そこから30個くらいを選んで毎日少しずつ書いていった。仕事帰り、蔦屋のタリーズや船乗り場の待合室などで30分ずつ、本当に少しずつ書いたが気づけば50ページ分になっていた。このブログにも書かない自分の思想についてばかり書いた。考えていることを文字に起こし、手触りのある本にすることで客観視できる。それがよかったと思う。

サイズを文庫版にしたのは良かったがフォントはヒラギノ明朝にするべきだった。反省。あと表紙は伊藤計劃の『ハーモニー』みたいに白地にタイトルのみにした。割と気に入っているのだけれど、シンプルすぎてあまり手に取ってもらえなかったようだ。そこは仕方ない。出展ブースの装飾をもう少し工夫するなどして人を呼び込むとして、本のデザインはこだわりを通すべきだ。

 

1万人を超える参加者が来場したらしく、会場はやや混雑していた。ブース数もかなり増えて全部見て回ることは不可能だった。規模が大きくなるのは一長一短がある。ちょっと忙しなさすぎるので、来年12月の東京ビックサイト会場に出た後は地方開催での参加に切り替えることも検討したい。しかし新潟周辺では開催がなく、遠征しなけばならない。前橋会場が終わってしまったようだ。文フリついでに旅行するのもいいかもしれない。

あと、今回初めて見本誌コーナーへ本を置いた。そこで見つけて購入した人がいるかは不明だが、会期終了後は日大に寄贈されるらしいので、試しに献本した。おそらく読まれることはないんだけれど、自分の文章が知らない場所に置かれているのはちょっとだけワクワクする。

粟島旅行記

2023年の夏、粟島へ旅行した記録。1泊2日。

 

⚫︎ 1日目
f:id:ngcmw93:20230722200246j:image10:30岩船港発。船は2019年の就航らしく、とても綺麗だった。乗客はそこそこ多い。天気が心配だったが、ギリギリ雨が降ることはなかった。

2階の座席に座ってプロ野球情報をチェックしていたら島に着いた。片道2,520円で所要時間は1時間半ほど。


f:id:ngcmw93:20230722200209j:image12:05内浦港着。民宿のご主人が迎えに来てくれる。だった1分ほどの距離を車に乗って移動しチェックイン。自分たちの他には2組の客がいるようだった。少し会話する。すぐに港の観光案内所へ行き、レンタサイクルを借りる。今回の旅のメインイベント、チャリで島一周に挑むためだ。離島に行ったらまずは一周しなければならない。1,500円で電動自転車を借りる。

 

f:id:ngcmw93:20230831182046j:image資料館を訪れた。こじんまりとした建物。島の歴史や風習、祭りの様子が紹介されている。両墓制の話が印象的だった。人が死ぬと、死体を埋める墓所と墓参りする墓所の2つの墓を作るらしい。日本で両墓制の集落は近畿地方に多いとのこと。粟島は何故か紀伊半島と文化の交流があったようで面白い。

資料館の近くには粟島小中学校がある。学校の前には島唯一の信号機があった。交通量がほぼ無い島には信号は不要だが、島の子供の学びのために設けられているらしい。

電動自転車は凄い。初めて乗ったが思ったより速度が出る。ペダルを漕ぐたびにぐんぐんと伸びる感覚が面白い。島の北西部、少し標高がある箇所は坂道を登ることになる。電動の動力のおかげでなんとか登り切れた。


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島のあちこちに短歌を詠んだ石碑がある。与謝野晶子の短歌もあった。粟島に来たことがあるのだろうか?調べたが対岸の村上に来た形跡しか見つからなかった。向こう岸から島を眺めて詠んだのかもしれない。

釜谷集落で一息つき、また坂を登る。小高い丘を登ったあたりでどういう訳か道を間違えてしまい、粟島小中学校の前まで降りてきてしまった。なんでだよ。こうして島一周の目的を遂げることなく、サイクリングは終了した。

その後は相棒とキャッチボールをしたり、温泉に入ったりしてのんびりと過ごした。宿で夕食を食べ、ひたすら『魁!男塾』を読むことに時間を費やした。大豪院邪鬼がデカすぎる。一晩で6巻あたりまで読めた。

21時に島内放送が流れる。火の元を確認しましょう、とのこと。夜風にあたりに外へ出たら、遠くから賑やかな声が聞こえる。花火をやっている家族連れがいた。静かで良い時間を過ごせた。

 

⚫︎ 2日目

朝食を食べて、港のあたりを散歩する。

f:id:ngcmw93:20230903160503j:image海へ続く堤防。

f:id:ngcmw93:20230903160339j:image発電所があった。

f:id:ngcmw93:20230903160419j:image10時にチェックアウトし、島のお土産物屋を見る。干物やお菓子が売られていた。あとは旅行ガイドが持つような三角形の旗(ペナント)など。アイスの桃太郎を買う。10年ぶりくらいに食べた。桃ではなくイチゴ味らしい。

その後は、土産物屋の隣にあるカフェで船の時間を待つ。島唯一のカフェのようで、開店と同時に満席になった。ホットドックを食べる。

f:id:ngcmw93:20230903160824j:imageフェリーターミナルの2階には喫茶店があったのだが、しばらく休業しているらしい。こちらも寄りたかったので残念。

 

 

⚫︎ 『粟島馬物語  ─ 人と暮らし ─』について

f:id:ngcmw93:20230903170602j:image島の土産物屋に「粟島馬物語」という小冊子が売られていた。面白そうだな、と直感で買って帰って読んだが、これが素晴らしい内容だった。

粟島には昭和7年頃まで馬が生息しており、その起源は源義経が対岸まで乗ってきて捨てた馬が泳いできた、とか、米沢上杉家の軍馬だ、とか、色々と伝説があるらしい。島の山で暮らす野生馬たちは、田を耕す時期になると男たちに捕まえられ、田んぼを耕すのに使われたらしい。耕し終えたらまた山に放たれた。

この冊子は、島にかつて住んでいた馬について、島の長老たち14人にインタビューし、昔の島の風土を記録したものだった。長老は大正10年から昭和一桁年代生まれの方ばかりで、皆80歳を過ぎている。そんなご老人たちが、バリバリの粟島弁で戦前から戦後、昭和の島の暮らしについて語る。馬の話も興味深かったが、戦争で大陸へ行った話、東京へ出稼ぎに出た話、昭和39年の新潟地震など、長老たちが思い思いに喋る昔話がどれもエピソードとしてかなり面白かった。どの長老も60年も昔のことを鮮明に記憶していて、それが何の脚色もなくそのまま書かれたものが、こんなに面白いとは。人の人生は物語のようだ。なんともいえず感動する。

コラムに書かれていた島の史実もどれも面白い。インタビューに登場するおじいさんの先祖に、船で漂流した末にハワイに辿り着き、7年後に択捉島を通って粟島に帰還した久太郎という人物がいた。大冒険だ。その人が帰還時に持ち帰ったガラス玉がまだあると話されている。久太郎は島へ帰ってからまた漁師をしていたらしい。

奥付には2012年発行とあった。10年以上が経過して、おそらく登場する長老たちにはもう生きていない人もいるだろう。歴史学民俗学の資料としてこういった本が重要なんじゃないかと思う。本当に良いものを読んだ。