状況が裂いた部屋

旅行と読書と生活

日本版ボーナストラックの功罪

f:id:ngcmw93:20170711185507j:image

   高校2年の夏に「Today」のPVを見て以来、ずっと自分の中でオールタイム・ベストバンドであるSmashing Pumpkins、そのTodayが収録されていて、バンドがブレイクしたきっかけとなったアルバムが2nd「siamese dream」。

   全13曲、トータルタイム62分の名盤だが、僕が高校生の頃近所のツタヤで借りたものは14曲目があった。アップテンポの轟音曲「Pissant」である。大学生の頃、相変わらずこのアルバムをよく聴いていた頃に考えていたのは「最後の曲、蛇足すぎでは…?」ということだった。このアルバムの一番好きなのは後半にこれでもかとばかりにメロウな曲が並ぶ流れだ。ジェームス・イハの作曲である「soma」「mayonaise」、リフが美しいミニマムな曲(Todayとこの曲のリフだけ弾ける)「sweet sweet」、そして最もテンポが遅く、控えめで耽美なストリングが綺麗な名曲「Luna」。これらが「silverfuck」「Geek USA」(曲名から最高)といった強烈なギターリフのあるアップテンポな曲と交互に聴かされるバランスが良い。しかしLunaがかなり壮大な曲なので、これで終わるのがどうしてもベストな気がする。ボーナストラックって誰が決めて入れてるんだろうか。

 

   みんな大好きRadioheadの2nd「the bends」の「killer cars」も日本版ボーナストラックだ。しかしこっちは蛇足な印象は受けない。むしろノリが良いのに壮大さもあるこの曲はアルバムの最後にぴったりで、普通に通常盤に入れろよ、と思う。

 

   Weezerの通称「Red Album」の最後にはまさかの日本語版「メリクリ」が収録されている。リバース・クオモの日本愛と遊び心が炸裂した結果だと思うけど、これがなかなかに良い。いかにも外国人が頑張って日本の歌を歌ってみました感があるが、BoAはそもそも韓国の方だけど、この曲は誰でも知ってる「日本の歌」と認知されてると思うので問題ない。リバースの日本語では、2009年のフジロックでparfect situationを演奏する前にMCで「フジサン、ニイガタサン…」と新潟という山があると勘違いしてるあたりが可愛すぎる。

SuiseiNoboAz@酒田music factory

   酒田でフェスを見てきた。7月上旬の土日2日間を使った、各日1ステージのみの、小規模でいかにも地方のライブイベント、って感じのやつだ。なかなかに雰囲気が良くて楽しめた。ユニーク過ぎるパフォーマンスと格好良過ぎる曲で一瞬でファンになってしまったCHAIというガールズバンドや、本格派轟音シューゲイザーバンドのslow snow slideなど片道3時間かけて行く価値あったな、と思えるバンドばかりだった。もちろん一番の目的は2日目にトリで出たLOSTAGEのライブを見て、話題の新譜を五味さん本人から買うことだったし、それは達成できた。In Dreamsは名盤。でもここではボアズのライブについてだけ書く。

   結論を先に書くと、本当に最高のライブだった。

 

 

 SuiseiNoboAz

 2017年7月8日21:10〜 酒田music factory

 

セットリスト

 

1.ultra
2.pika
3.gakiami
4.shoegazer
5.T.D.P.P PIRATES LANGUAGE
6.rock'n roll
7.elephant you
8.hypercub
9.liquid rainbow
en.E.O.W

 

 

   書き出してはみたけれど後半の曲順が曖昧だ。hypercubは6曲目だったかもしれない。やったのは確かにこの10曲。

 

   1曲目、てっきりliquid rainbowでくると思っていたら予想を裏切られた。オープニングの定番曲urtra。ギターの音が良過ぎる。石原さんが高い音がキツそうでがなり散らすように歌っていた。続けて2曲目はpika。イントロの音の広がりが本当に気持ちいい。ぬるぬると自在に動くベースラインとサビの疾走感。自分は石原さん側の2列目あたりで観ていたんだけれど、音のバランスが完璧だと思った。2013年のライジングサンで観たときはスピーカーの目の前だったため、爆音のファズでかなり耳にダメージを負ったので。

 

   gakiamiの前に石原さんは横に設置した機材(Macbookとパッドのようなものがあった)から謎の音声を流し、客をポカンとさせてから曲に入った。流石にお経ではなかった。俺のファズは水陸両用モデル。

 

   shoegazerは2ndのなかでも64やlandryと並び大好きな曲だが、gleenlandの間奏と同じく高野メルドーがいい感じの浮遊感のあるギターを弾いていて見事にアップデートされていた。高野メルドーはインターネット狂なのでこの文章を読んでくれるかなとちょっと期待している。

 

   途中、石原さんが我々は山形でのライブは初めてだが、山形の事は愛読している本上まなみさんのエッセイでよく知っている、という旨のMCをしてウケていた。ちなみに僕は翌日ブックオフ本上まなみほんじょの鉛筆日和。」を108円で購入し、もれなくファンになった。かわいい文章だ。

 

   T.D.P.P、相変わらず壮絶な曲だ。ライブでよくやるなと毎度思う。ずっと赤い照明なのがよかった。「ピザでも食ってろ豚野郎‼︎」感が炸裂してた。伝われ。

 

   3rdのubikからrock'n rollとelephant youをやってくれたのも嬉しかった。というか2ndから新譜までのライブ曲を包括していて最高のセットリストだった。4人体制になってもそれまでの既存曲では石原さんの弾いているパートは特に変わらず、バンドの土台にメルドーのギターが一本上乗せされたという感じだ。

 

   hypercubはやってくれると思っていたが案の定素晴らしかった。轟音ファズのあまりの美しさに恍惚とした。ひとつのコードをまさに「64分くらいの感じで」ひたすら弾き倒す間奏、男らしさと潔さがロックンロール感あった。ラストにliquid rainbowで本編終了、掃けてすぐにアンコール、E.O.Wで一番の盛り上がりを見せた。延々と引き延ばされるアウトロの中、天井から吊るされた石原さんのストラトからノイズを発したままこの日何度目かわからないメンバー紹介、最後テープエコーがブツリと落とされて終わった。ロックバンドならこうありたい、こうあってほしいという願望全てを叶えるような立ち姿のバンドだと思う。もしかしたら逆で、こんなかっこいいバンドのことをロックバンドと呼ぶのかもしれない。いずれにせよバンドのロマンの全てを体現したライブであった。

 

   ツアーをもう一周まわりたいくらいだとも話していた。頼むから新潟に来てくれ。

f:id:ngcmw93:20170714085103j:imagef:id:ngcmw93:20170714085237j:imagef:id:ngcmw93:20170718025119j:imagef:id:ngcmw93:20170718034408j:image

   

 

手帳が好き

   手帳が好きだ。大学1年の頃から毎年買ってそこそこ活用している。手帳を選ぶ作業も好き。4月始まり派なので年度末にはだいたい本屋をうろついて手帳を物色している。一年に一冊しか買えないのがもどかしいがそれもまた良い。いま使っているのはかなりシンプルな紺の革の手帳だ。気に入っている。昨年度は毎日3行程度の日記を書くことができるものを選んだんだけれど、三日坊主を発動し大して書かなかったので薄いものにした。

   一時期はスマホにスケジュールのアプリでもいれてそれに一元化しようか、とも考えたけれど、やはりアナログの良さに気付き、結局現在に至る。就活中とかにつくづく思ったけど、スマホに掛かってきた電話の内容をメモしようとしたときに当然ながらスマホにメモできない。仕方なく手近な紙に書き散らし、それをいちいち入力するというのは面倒極まりない。そんな実用上の理由以外にも、手書きだからこそやっぱいいなあとなる瞬間が時々ある。11月のページを開くと、祝日が2つあることが一瞬で認識できて喜びが大きい。iPhoneのカレンダーだといまひとつここ祝日だ!感を味わえない。あと鉛筆で直感的に予定を書き込めるのが良い。3日間の出張なら「東京出張6/6→6/8」と3コマ横断して矢印を引けば分かりやすい。イベントの日は丸印、ライブの日は二重丸をつける。

 

   過去の手帳を読み返す作業も好きだ。特に大学1年の頃の手帳は読みごたえがある。何を思って参加したのかわからないイベントや特別講義、今じゃ縁が切れてしまった当時の知人との飲み会、などなど。飲み会が多すぎる。とんでもない体力と無鉄砲さが感じられて当時の自分の若さに参る。ひたすら遊び呆けていた大学1年、地獄みたいな恋愛と様々な不安からかなり精神の浮き沈みが激しかった2年、バンドから距離を置いて孤独に公務員試験の勉強に打ち込んだ3年、バンドと旅行で生き甲斐を取り戻しつつも常に寂しかった4年、と大学生活が思い出される。これら4冊の手帳は思い出をリマインドさせる強力すぎるトリガーであるため、タイムカプセルにして10年くらい寝かせたい気もする。でも今だに押し入れの手前に置いてあり、半年に一度、衣替えの度に見つけては読んで身悶えている。

三部作について思うこと

   僕の中のオールタイム・ベスト映画は12歳の頃から「BACK TO THE FUTURE」である。監督ロバート・ゼメキスはこの傑作の続編を絶対に作らないと決め、また他人に勝手にリメイクされないようあらゆる権利を買い占めているという。素晴らしいと思う。この傑作に付け加えるものなど何もない。もし中途半端な期待を持たせられ、ゼメキスの寿命やマーティ役のマイケル・J・フォックスの病気の具合を心配しつつpart4を待ち続ける人生なんてそんなのは嫌だ。まあそもそもpart2、part3と制作されたのも1のエンドクレジットが発端で続編を作ることになった、ってことだけど、それにしても前作の伏線をしっかり拾っていることが凄い。過去、未来、そして過去と時をかけるロマン、気持ちのいい伏線回収、破茶滅茶なマーティとナイスキャラのドク、敵役のビフ、世の中の少年たちの永遠の憧れデロリアンDMC-12など魅力に溢れた映画だ。

   しかしこの映画の本質はpart3のラスト、現代へ帰るドクの台詞に尽きると思う。SF映画史に残る最高のメッセージだと思う。

f:id:ngcmw93:20170701075112j:imagef:id:ngcmw93:20170701075118j:image

 

   SF映画には他にもトリロジーで完結したものがいくつかある。パッと思い付くもので「マトリックス」「ロードオブザリング」あたりか。スターウォーズシリーズは3部作が3つでサーガ、みたいな呼ばれ方になりつつある。

 

   恩田陸がエッセイ「小説以外」の中で言及しているところで、小説「ゲド戦記」がある。原作は3部で完結したと思われたが、3巻の18年後に4巻が出る。自分は物書きではないのでわからないが、小説家からすると自分で生み出した物語が終わった、と区切りを付けるのは難しいようだ。

   ファンの側としては好きな作品の続編が始まる、ということは嬉しい限りであると同時に、自分中で作られたイメージが崩されるのでは、と不安に思ってしまうところがあると思う。それでも期待し、公開日に映画館へ足を運んではあれはよかった、あれはクソだ、とやんややんやと語り合っている。一概には言えないが、批判的な人もどこか楽しそうにしているように思える。

 

  何が言いたいかよくわからない文章になったけど、蛇足にならない続編なら許す、しかしそれは続編が作られ、それを観ないことには判断がつかないところだし、好きな作品なら必ず観る、でも続編が作られないことが約束されているからこそある美しさもある、ということ。なんだそりゃ、って感じだがこれが言いたかった。

「金字塔」から20年

f:id:ngcmw93:20170920185647j:image

   今日で中村一義の1stデビューアルバム「金字塔」の発売から20年が経つらしい。発売日は1997年6月18日。「97’の世代」では一番影が薄い感じもあるが、相変わらず全国ツアーやフェスへの出演、新譜の発表などいいペースで活動していて嬉しい。ライブはなかなか観に行けてないんだけれど。「最高宝」は多分買うと思う。

 

   こうしてこのアルバムにちなんだ名前のブログまでやっている訳だし、この機会に金字塔の全曲レビューを書こうと思う。思い返せば自分がまだ高校生だった頃にたまたま聴いた「犬と猫」でハマったのが最初だった。YouTubeで2002年武道館ライブの映像をひたすら観て、アルバムを一通り借りて受験期にひたすら聴いていた。受験期に一番聴いたのはRadioheadの「OKコンピューター」だと思うけど(厨二病くさい)、同じくらい「金字塔」と「太陽」も聴いた。確かセンター試験を受けにいく朝もウォークマンで聴いて行った。こう言うのはなんだけれど、中村一義の歌詞は聴き取れない部分が多いため(いい意味で。楽器の一つと認識してる)、洋楽と同じで勉強しながらでもいくらでも聴けた。大学1年の冬には2012年の15周年記念武道館ライブへ行き、それが中村一義を初めて観たライブだった。これは前のブログに書いた気がする。アルバム「ALL」あたりまでのナカカズと100sは本当に思い入れが強すぎて全てにレビューを書きたいくらいだ。そう言ってどうせ書かないんだけれど。とりあえずこのアルバムについて。

 

 

1.始まりとは

始まりからナカカズ感の炸裂である。

さん、にい、いち、とカウント(声が近い)、「全てに溢れ、何かが無くて…」とアコギのコードが鳴っている中、ラジカセ越しのような声で謎めいた語り。なんとなく朝を想起させる音。確かに始まりを予感させる。

歌詞カードに歌詞は無い、と思いきや表紙をめくってすぐ、曲リストの目次ページより前にある。「曲がりくねる直線にある点の上でね、走る、」の「走るっ!」の発音が好き。導入曲、といえばこの曲が浮かぶくらい刷り込まれている。

 

2.犬と猫

大名曲。どう?という問いかけは何に向けてるんだろうか。そして「奴ら」とは。「街を背に僕は行く」「僕は僕。もう、最高潮!落とせ、あんなもんは…ねぇ。」「状況が裂いた部屋に、僕は眠る…。みんな、どう?」これぞ、中村一義、と言いたくなる歌詞。癖が強すぎる。ナカカズの歌詞の魅力は、メッセージ性の強さにあると思う。普通に歌詞だけ読んだら意味を理解するのは難しい。僕もさっぱりわからない。しかし曲として聴いた時、ふとした瞬間に「こういう感じなのかな」というイメージがパッと頭に浮かぶことがある。そのイメージがたまらなく愛おしくて、聴いてると本当に多幸感がすごい。「僕として僕は行く。僕等問題ないんだろうな。」というフレーズの強い意思と肯定感。あと終盤の「ブルースに殺されちゃうんだ。」が最高に気持ちいい。

当時はダイドーのコーヒーのCMソングだったらしい。なかなか想像がつかない。100sの車のCMは見たことあるけど。

 

3.街の灯

アコギ曲。ほぼ弾き語りの穏やかで暖かい曲。「外へ出て行きましょう。」の部分の声を張るところが好き。特に盛り上がるアレンジもなく、淡々とした曲調でナカカズの高音がやたら映える。

 

4.天才とは

 「膨大な数の人みんなが天才であり、創業者なんで、「今、全てが溢れちゃって」なんて言うなって。偶然は巡る!」

意味はさっぱりわからない。自分を否定した?さっぱりだ。「ウッソー⁉︎イヤ?そうなら…いいなぁ。」どんな歌詞だよ。どこまでも表現で、どこまでも自由だ。

ちょっとバタついたドラムがいい感じの宅録感で好き。

 

5.瞬間で

20秒の曲。かわいい。

 

6.魔法を信じ続けるかい?

 名曲。100sの曲に続編(?)「魔法を信じ続けているかい?」がある。素直に歌詞が好きだ。

 

7.どこにいる

 部屋、近道、街…とシーンが変わっていき、その場所で撮ったと思われる様々な音が流れる。土手は江戸川沿いの何処かだろうか。始まる前の「スーッ」は煙草の煙を吹き出す時の音かも。5曲目「瞬間で」もそうだけれど、こういうアルバムに入れちゃうのは野暮なような、謎の箸休め的な曲があるからこその『金字塔』の独特な雰囲気が現れているように思える。テープを再生するカチッという音や土手沿いを散歩する足音が入ってる、アナログ感なのかなんかよくわかんないこの感じ。名曲が10曲ビシッと入ったシングル集のようなアルバムではなく、趣味と生活の延長線上でふと撮っちゃった曲も入った14曲入りの方が面白いし聴きたい。

 

8.ここにいる

2012年の武道館で、(記憶が正しければ)ゲストのくるりがカバーした曲。名曲。

 

9.まる・さんかく・しかく

 オープニング感のある華々しいイントロ。「まーるさんかくしかーくー…」とほのぼのとしたNHK教育で流れる明るいナンバー。ほっこりする。やたらスライドするベースが良い。

 

10.天才たち

30秒の箸休め的なトラック。英語の会話とか。なんのテープから持ってきたんだろうか。

 

11.いっせーのせっ!

なんとなく、中村一義っぽさが一番表れている気がする曲だ。

 

12.謎

個人的にかなりお気に入りな曲。永遠なるものを除けば一番かも。イントロが素晴らしい。

「夢中な時ほど人のことは考えず…られず…進む。…。

  まぁ歩いて、気合抜いて、歩いて、休み入れて、歩き  続ければ、

  いつかは会える。」いい歌詞。

最後、「この詞の最初に戻る。」時々メタ的な視点が出てくるのが気になる。

 

13.いつか

 なんとなく2nd「太陽」に収録されててもおかしくない、ほんわかした印象の曲。

「「手に入れた?その人生の地図」。
そんなもんは、飛んでっちゃったよ‼︎」

 

14.永遠なるもの

世紀の大名曲。スマパンの「Today」、スーパーカーの「sunday people」と並んで自分のテーマソングにしている、大切な曲。

 静かな弾き語りの導入からの一気に来るサビ。「あぁ、全てが人並みに、上手く行きますように…。」

突き抜けるサビと祈るような歌詞。思い入れが強すぎてちょっと文章に出来ない。中村一義が22歳でこのアルバムを出すまでの人生がこの一曲に詰まっているようにすら思える。生まれた境遇、子供の頃の日々、そして状況が裂いた部屋で過ごした膨大な時間、全てを昇華して讃美歌として歌う。言葉に還元できない多幸感。この曲と、この曲のPVが彼の人生のこの時点での集大成な感がある。言い過ぎか。何度救われたかわからない大好きな曲。


中村一義 - 「永遠なるもの」

  

15.犬と猫 再び

 12分以上あるトラック。10分過ぎからゆるいスタジオの会話が始まる。会話の感じからアコギを弾いてるのは中村一義ではない模様。「冬の真っ最中に暑い日もある。夏の真っ最中に寒い日もある。気の持ちようで、人は山も動かせんのかなぁ。」

 

16.(シークレットトラック)

10分強のトラック。最後に20秒ほどの効果音でアルバムが締まる。72分。スーパーカー「スリーアウトチェンジ」と同じく、このアルバムはCDのフルタイムで収録されていることになる。

 

おまけ「最果てにて」


〝最果てにて〟 中村一義

隠れた大名曲。何故入れなかったんだ…。

 

この文章を書くために2週分ほど通して聞き返しながら佐内正史の写真による歌詞カードを読んでいたわけだけれど、いろいろな学生時代の思い出補正もあってかすっかり感傷的になってしまった。聴き込んだアルバムだけに、付随する思い出の数も多く、それなりに思い返すことがたくさんある。

アナログ盤も欲しいので、見つけたら買おうと思う。

無題

    新潟で暮らして20年目になる。出身は新潟だけど、4歳になる直前まで父親の仕事の都合で東京で暮らしていた。親の離婚をきっかけに母の実家に帰った感じだ。この地方都市はこれぞという観光地はないが住み心地でいえばそこそこ悪くない、丁度良さのある街だと思う。大都会特有の忙しなさや冷たさがあるわけではなく、過疎地のど田舎特有の面倒な寄合いなどの煩わしい人間関係もない。まあこれについては現在実家暮らしなのでちょっとした親戚付き合いくらいはある。それも理由をつけて逃げられる程度のものだ。ロフトがあり、タワレコが一応あり、やたらと美容院が多く、都会へのアクセスは良い、普通に暮らす分には悪くない街。

 

    高校生の頃、様々な要因からくる居心地の悪さや窮屈さ(今思えば7割は自分のせい)にはち切れそうになりながらも平々凡々な男子学生だった僕は大学進学というチャンスで絶対にこの街から出て行ってやろうと心に決め、それをモチベーションに勉強に励んでいた。街を出るからには都会がよいなあと思いながら、本屋で関東の大学の赤本を眺めていた。数学ができないから文系、やりたいことは特にないけど小説が好きだし日本史も好きだな、うちには金がないな、などと考えているうちに自然と進路は関東の某国公立文系に定まった。しかし、センターの点があまりにも微妙で出願はあっさり諦めた。その下となると関東にちょうど良い偏差値の大学は無く、ならばと同じ北陸だけど少しレベルの高い金沢の大学を受験する悪足掻きをするも見事失敗、浪人は出来ない事情から結局後期である意味一番受けたくなかった地元の国立大学(後期なのでB判定なのに人文をやめA判だったF欄臭がすごいクソ長い名前の学科)に落ち着いた。

    結論から言えば結果オーライで、23歳になった今ではここで大学生活を送れてよかったと思っている。大学は良い時期も悪い時期もあったけどそれも引っくるめてとても楽しかった。地元の大学に進学しなければ地元に就職することもなかっただろうし、今の仕事にも就くこともなかったと思う。今の居場所は自分にちょうど良く、バンドという生き甲斐もある。映画を観ることも読書も旅行も割と出来てる。

    確か大学3年くらいの春、男友達といつもの呑み屋でだらだらと瓶ビールを飲んでいた時、なんとなく就活の話になった。一応お互いそういう時期だったし。僕が公務員試験の勉強をして、地元の役所を受けるよ、というとそっかあ、いいんじゃねと言われた。そいつは院に進むと言った。理系はそういう選択もあるよね、研究室大変かもだけどモラトリアムの延長が出来るのは羨ましい、と僕は言った。次に唐突に友達は姉の話をはじめた。大学を出て、地元で社会人になり、働きながら普通に元気に働く姉のことを一通り話してから、それもいい人生かもしれないけど、と前置きして奴は言った

「自分を納得させる生き方はしたくないよね」

 

その後酔い潰れた友達を家に送ったあと、コンビニに寄り初めてタバコを買って吸いながらか考えた。自分がしようとしている選択は、まさにそれなんじゃないのか…と

 

    時間は経って、結局自分は地元で公務員になった。良い落とし所に落ち着いた、とも言えるし、可能性(薄っぺらい言葉だ…)から逃げたと見ることもできる。東京でも2社だけ民間を受けたけど選考の途中で今の就職先が決まり蹴ってしまった。それが間違ってたとも思わない。

   それでも、「自分を納得させる生き方」という言葉が少し引っかかったのも事実だ。

 

 

   まとめると、都会に出ることに漠然と憧れていた昔の自分の願望は叶わなかったが、社会人2年目でそんな人生を肯定できた、ということ。

この街がまあまあの規模の地方都市で、就職先の待遇がまあまあ良く、今後の自分もまあなんとかやっていけそう、という見通しが立ってようやくこうして言えることでもあるので、一度は街を離れて全く違う環境で暮らしてみるのも悪くないかもしれない。でも、そのリスクを考えるとやっぱり今の生活がいい。

「バンド力」の話

   昨年の5月にバンドに加入して、もうすぐ1年が経つ。

   初ライブは6月だった。あれから月2本ペースでのライブ、EP1枚とスプリットCDの発売、自主企画と自主スタジオライブなど思い付く限りのことを悉くやってきたこれまでを振り返ると、つくづく運のいいバンドだと思う。手探りで始めたバンドがここまでハイペースで活動できることってなかなかないはずだ。昨日もスルッと野外の音楽イベントに参加決まったし。人と環境に恵まれてる。

 

   リリースした音源を聴くと音の粗さと演奏の下手さに絶望することもあるんだけど、6曲とも何ヶ所かは「あーここ好き…」とか「このアレンジ良い…」とか優れた部分を毎回見つけることができて、撮ってよかったなと思う。何より暗いモードに入った時とかに聴き返して、自分たちが過去に作った音源が自分の救いになることがある、というのが嬉しい。

 

   他にもバンドを始めた事による嬉しい出来事はいくつもあって、そのひとつが沢山の音楽好きと知り合えたことだ。ライブハウスに日頃から出入りする人間はかなりの音楽フリークかお酒を飲んでバカ騒ぎしたいかもしくはその両方か、といった感じなので、楽しい。打ち上げではレディオヘッドでは何枚目が好きか、トレインスポッティング2は見たか、ローゼズの来日公演に行くかフジロックのラインナップは何年が最高だったかと談義が終わらない。楽しい。あとバンド関係ないけど毎週のように飲んでたら新潟古町周辺の飲み屋さんに詳しくなった。

 

 

   ここからが本題で、時々ボーカルが言う「バンド力」についての話。

   端的に言うとグルーヴ感とキメをバシッと合わせることの重要さ、といったところだと思う。けど、これは言葉で説明できない部分が多くて、今書いてみてもなんか違うなと違和感がある。

 

   バンドをやった事がある人なら経験した事があるはずなんだけれど、演奏したときにカタルシスを感じる瞬間というか、弾きながら「うわ今めちゃめちゃ気持ちいい」って鳥肌が立つ瞬間がある。演奏ががっちりと噛み合って鳴ってる全ての音がクリアに聞こえて、神が舞い降りたんじゃないかと錯覚するように不思議と弾いたこともないフレーズが浮かんで宙に浮くような気分になる。流石にこんなことは100回に1回くらいしかないんだけれど。この瞬間を常に出せるか、という話だと思う。これが毎回のライブで出せて、聴く人も同じように感じることができ、さらに音源からも感じられるようになったら本物だと思う。

    わかりやすい例で言ってしまえばナンバーガールのライブ映像がそうだ。ミッシェルガンエレファントとのライブや初期スーパーカーの演奏からも感じられる気がする。

 

   本当に上手いプロのアーティストは気軽なセッションとかでこれを毎回味わってるのかな、と想像するとそりゃバンドはやめられないよなーと思う。こういう瞬間のためにバンドをやってるんじゃないかと思う。次の段階へのジャンプアップのため、それに憧れのバンドに近づくためにも「バンド力の向上」を最大の課題なのかなと思う。


LOSTAGE -手紙-