状況が裂いた部屋

旅行と読書と生活

小旅行の夜

フロントのおじさんに鍵を渡し、外に出る。雨が降っていたので、フロントに戻り「傘って借りれますか?」と聞くと、少々お待ちください、と言われたので壁に貼られた地図を眺めながら待つと傘を持ってきてくれた。「他のお客様が使われたので少し少々濡れておりますが…」「全然大丈夫です、ありがとうございます」受け取った傘は触ると確かに濡れていたが、どうせこれからまた濡らすし。『濡れない傘はない』というフレーズを思いつきながら外に出る。街灯に翳して時計を見ると19時半。とりあえずあてもなく歩いてみる。左手に駅があるのは来るときに見えたので、そちらへ歩くと1分も経たずに高岡駅前に出た。左手に食事ができそうな店があったがチェーン店感があったので候補に入れず、ビジネスホテルの前まで戻り駅から離れる道を歩いてみる。一軒居酒屋があったが宴会向けのでかい店舗だったのでこれも通り過ぎる。コンビニに入りGoogleマップを見ると、繁華街は駅の反対側にあるらしい。外出る前に調べるんだったな、まあこれも一興、と思いつつ最寄りの居酒屋を探し、そこに決めて向かう。着くとこじんまりした個人経営の居酒屋、という感じなので思い切って入る。雨も降ってるし。


一人です、というとカウンターに通される。メニューを見ると普通の居酒屋の価格で安心する。おしぼりを渡された時に生お願いします、と言ったが店員さんに聞こえなかったらしく行ってしまった。恥ずかし、と思いながらメニューを眺め、揚げ物食べたいな、たこ唐揚げだな、と思い別の店員さんに注文する。しばらくテレビを眺めながらビールを飲む。せっかく富山に来たんだし魚を食べるか、でも昼間一応寿司食べたしなあ、と思ってるうちに隣に客が来たのでひとつ席を詰める。見渡せば狭い店内はカウンターしか空いていないほど混んでいた。入ってくるときは混んでる感じなかったのに。入ってきた男女はどちらもレモンサワーを頼んで、お互いの携帯を見せ合いながら仲睦まじく盛り上がっている。左手はこの時間でもうベロベロのおじさん二人、右手はカップル、囲まれたな、と思いながらアイコスの電源を付ける。ひとり飲みの人がいたら話しかけようと思ったのに。まあ仕方ないかとiPhoneをつつく。聴こえてくる会話のイントネーションがかなり関西寄りで、西に来たなと感じる。ここへくる途中立ち寄った糸魚川の展示館的なところでこの地点が東西の文化の境目である、と書かれていたが、言語では少し実感した。あたしの彼氏、出身が新潟なんだけど、と右の男女の女性の方が言うのが聞こえて、いやあんたらカップルじゃなかったのかよ…と思う。男の方が彼女の愚痴を話し出す。それぞれ彼氏彼女がいてそれでもサシ飲みできる親しい友達か、素敵じゃないか、wouldn't it be nice、と連想しながら芋焼酎に切り替える。さっきからマスターと呼ばれてるおじさんが目の前で作業してるのでおすすめのお刺身でも聞こうとしたら奥に行ってしまう。どうも店員さんと間が悪いな、と思いながら携帯をつつく。時間がないときに見つけ、リーディングリストに登録していた読み物を片っ端から読む作業。当たりもあればつまらないものもある。「孫悟空とは何者だったのか」「vaporwaveとその観察者的効果」あとは新作映画のレビューや「ハン・ソロ」のあるシーンにBACK TO THE FUTUREへのオマージュがあった、という話題などなど。なかなか読み応えがあって、少し酔いも周りいい気分になってくる。これまで触れてきた映画や小説でも気付かず見過ごしてきたオマージュが沢山あっただろうけど、それで作品の魅力が損なわれるわけではないし。でも知ってたほうが面白いしなあ、玄人ぶる人たちはそういった小ネタや舞台裏の話を語ることですぐ通ぶるんだから…でもそれはそれで楽しいしなあ、最近思うこととして、最高の創作物に触れたら余計な御託を垂れずただ「最高!」っていう感想、それだけでいいのでは?ディテールを語るのはある意味野暮な行為では、などと考える。でも語りたいものは語りたい、飲み会であるシーンを同じように捉えた人を見つけてブチ上がりたい…会話の中でそれを全て伝え合うのは難しい、やっぱり文章に書き出して、残る形にすることが一番いい手段か、でも会話の形態でしか出てこない言葉もある訳で…などとぐるぐる考えてるうちに2時間以上経っていた。お会計をして、意外と高く付いてうむ…と思う。レジの店員さん可愛かったなあと思いながらコンビニで話題のチューハイとつまみを買い、ホテルに帰り、傘を返し、シャワーを浴び、テレビをBGM代わりにして文章を打って今に至る。