状況が裂いた部屋

旅行と読書と生活

伊豆大島旅行記

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2019年9月21日〜22日の日程で、伊豆大島を旅行した記録。

 

伊豆大島へは船で渡った。JR浜松町駅近くの竹芝桟橋から東海汽船に乗ることができる。このほかに静岡の熱海や下田からも就航しており、大島へ渡る一番定番の手段がジェットフォイルのようだ。この日は7時台に2本、8時台も2本と結構本数があり、自分は8:25発の切符を買った。例によって今回の旅行を決めたのが前日だったため、ネットや電話でできる事前予約をしていない。それでも普通に窓際の席が取れた。3連休の初日なのでかなりの混雑を覚悟していたのに拍子抜けだった。

釣竿とクーラーケースを背負った釣り目的の集団と、ロードバイクが入っているであろう大きなバッグを抱えたサイクリング目的の集団に挟まれながら搭乗する。2階建の1階席。九州あたりに台風が来ていたが大した影響はなく、そこまで揺れなかった。

 

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ジェットフォイルには「セブンアイランド」という名前が付いており、今回自分が乗ったのは「愛」という名前だった。これを含めて現在4隻が就航しているようで、いくつかの船は名前とペイントが非常にダサくて好感が持てる。この船が一番マシだった。特に「大漁」がなかなかすごい。漁船みたいな名前とまさに大漁旗みたいなデザイン。

前日に大島行きを思いついた時、船がどこから何本出ているかはすぐ調べられたけれど、万が一欠航しないか、という点が心配だった。東海汽船のサイトによると出港当日の朝にしか情報が出ないようだ。調べていくうちに、大島在住の気象予報士の方がやっている就航予想のサイトがあった(伊豆大島 気象と交通 )。出発、帰着日に丸が付いていたのでひとまず安心して乗れた。就航予想以外も、気象関連の詳しい解説があったり、経営している鶏園の卵の販売状況を無人カメラで中継していたりと面白い。一般の人が完全に趣味でやってます、って感じが良い。

 

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 竹芝桟橋から120キロ、1時間45分で大島へ到着。着くとすぐにガラス張りの綺麗な建物がある。帰る際に入って知ったが、船の切符売り場やお土産物屋が入った施設だった。津波が来た際の避難場所にもなっているようだ。

出口には船の到着に合わせて2台のバスが来ていた。一台は三原山の山頂口へ、もう一台は元町港へ向かうらしい。前日に予約した宿は元町ってとこにあったな、と思いそちらに乗る。

バスの車窓を見える景色は、ちょっと田舎な普通の街だ。まるで人がいない場所を想像していた。後から知ったが住民は7,500人ほどいるらしい。自動車学校まであって驚く。パチンコ屋もあった。風が強い地域のためか家は平屋が多い。空港には小型のプロペラ機とヘリがあるのが見えた。

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元町港に着く。後に出てくるタクシーの運転手さんに聞いてようやく分かったけれど、大島には島の北側にある岡田港と西側の元町港という2つの港があり、その日の風向きによって船が出帆する港が変わるらしい。ちなみに自分が滞在した2日間は岡田港だった。朝にならないとどちらを使うかわからない。はずれの側の港にいても、出帆港行きのバスが出るので時間が合えばなんとかなる。あとすげえ雑なポスターが良かった。

 

今回も例によって特にこれといった旅の目的を持たずにここまで来てしまったため、観光案内所でパンフレットをもらいようやくどこへ行こうか考える。そもそも何故大島に来たかといえば、本当に思いつきで「島に行きてえ」と思ったからだ。遠くに行きたい、遠くといえば島、絶海の孤島へ行ってやろう…。そう、正直に言えば青ヶ島のような孤島、自然しかないポツンとした島へ渡りたかった。が、時間と費用が足りないのは明らかなためすぐ断念。しかも翌日熱海で友達と合流する予定まであったので、気軽に行ける島でのんびりできるところ、というわけで近場の大島に落ち着いた。近場でもないけど。宿だけ予約して勢いで来たため、本当になんの予定もなかった。この時点で遠くに来るという目的はある意味達成している。

さっき三原山を登るバスに乗れば観光気分を味わえたのかな、でも天気も微妙だしな、と考えているうちに「火山博物館」なるものがあると分かり、徒歩で向かう。

 

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外観が割と立派な建物。 500円払って入館すると、ガイドの者が居りますが解説聞きますか、と言われる。せっかくなのでお願いすると、登場したおじさんにどれくらいで見て回りますか、と聞かれるので1時間くらい、というとそれなら十分ですねえと嬉しそうに言う。三原山は30~40年に一度ほどのペースで小規模な噴火すること、それを観察するため観測所が至るところにあること、噴火時は研究者や観光客が押し寄せるので島には割と恩恵があること、1986年の大規模な割れ目噴火では全島民が一時避難したこと、などを1時間フルに使って丁寧に解説してくれた。噴火というと生活を破壊される天災のイメージが強かったけれど、島の人からしたらそうでもないらしい。私の親父なんかは子供の頃流れてる溶岩を木の棒でつついて遊んでいたらしいですよ、などという。割れ目噴火でも起こらない限り、三原山は基本穏やかな噴火のため、地形が変わり被害が出るような噴火は数百年に一度らしい。しかし1986年の大噴火は歴史的なもので、溶岩は最大で1,500mまで吹き上がった(観測史上世界最大)。後日放送を観たブラタモリでも詳しく解説していた。館内の2階にあるシュミレータ・カプセルは大したことなかったけどなんか笑えてよかった。結局1時間半くらいいたけど、その間自分以外の来場者は来なかった。

外へ出ようとすると、これからどうするのと聞かれどうしましょうかと答える。天気が良かったらせっかくだし山でも登るんですが、と言うと今日は天気は持ちそうだし火口を見てきなよ、と三原山頂口へのバスを調べてくれた。親切。すると10分後のバスで元町港から岡田港へ戻れば山に登れる、と分かり急いで出発する。

 

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岡田港で食べたべっこう丼。めっちゃ美味しい。岡田港から山頂口へ向かうバスはこの便が最終だったためか乗客は自分だけだった。運転手さんのすぐ後ろに座り、道中ずっと喋っていた。

山の中腹あたりで猿を見つけて、猿いる!と言うと野生のが結構いるんだよ、と平然と言う。そういえばバス停に「キョン捕獲について」という役場の通知が掲示されていたので調べると、鹿の一種が動物園から脱走したものが野生化して島に一万頭ほどいるらしい。島の人口より多い。なんでもありかよ…。

 

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山頂口に着き、火口を目指して歩く。45分かかる、とあったけど30分ちょっとで登れた。かなり風が強い。所々に噴火時の逃げ場となるシェルターがある。登り切ると、溶岩と草に覆われた大地が一望できる。日本じゃないみたいだ。三原神社にお参りしてから、さらに10分ほど歩いて火口の展望スポットへ。

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火口付近では煙が登っている地点もあった。ゴジラみたいな岩がある。チャリで来た強者もいるようだ。お鉢めぐりという火口を歩いて一周するコースもあったけれど、疲れてたのでパスした。日本で唯一「砂漠」と表記される「裏砂漠」はちょっと見たかった。

また30分ほどかけて山頂口へ戻る。お土産物屋でアイスを買って食べていると、店のおばさんにあんたどうやって帰るの、もうバスないよ?と心配される。スカイラインを歩いて元町へ向かいます、と答えると、それは大変だよ…と心配される。あと4,50分したら店閉めるから車載せてあげようか、と言ってくれた。せっかくの親切を断るのも気が引けたが、博物館のおじさんが徒歩でも1時間で降りてこれると言ってたので歩いて戻ることにした。この選択をすぐ後悔することになる…。

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山から元町へ降りる道は「御神火スカイライン」というらしい。先日の台風の影響で木がなぎ倒されており、車両は通行止になっていた。しかし歩いては通れる、無理をすれば。かなりの急勾配で20分くらいで足が攣りそうになる。おまけにスニーカーの底が破けたのか一歩ごとにパフッ、と幼児の靴みたいな哀れな音がする。街灯もないので、なんとか日没までに下山せねば、と必死に足を動かす。気分転換の観光目的で来たちょっと南の島で、俺は何故こんなに難儀な状況なんだ、と自問しながら歩く。結局1時間半くらいかかり、ボロボロで街へ降りてきた。

夕飯時だったので目の前にあったホルモン焼きの店に入ってビールを飲む。ラジカセから流れる上方落語を聴きながら肉を焼く。メニューに「盛若」という焼酎があるのを見つけた。昼間のバスの運転手さんが絶対に飲んでおけ、とオススメしてたやつだ、と嬉しくなって注文してみる。めっちゃ美味しい。焼酎は全然詳しくないけれど、これは相当美味い部類のやつな気がする。ラベルには神津島酒造とあり、神津島といえば「天気の子」のすぐ銃撃つ主人公の出身地だと思い出す。

宿に帰る途中、すぐ後ろを歩いていた酔っぱらいが大声で猥談をしていたのに突然「うわ星めっちゃ綺麗だ!」と叫ぶので見上げると雲の隙間から星空が見えた。虹とか星空とか、こういう突然遭遇してちょっと得した気分になる風景っていいなと思う。高速道路を運転していたら通りすがりの街で花火が上がるのが見えたとか、朝方に目的地へ着く飛行機の機内で朝日が見ることができた、みたいなやつ。

 

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翌朝は晴れていた。自分が泊まった元町ではなく岡田港から船が出るとのことで、バスを逃したのでタクシーで移動する。この運転手のおじさんが博識で、喋っていて楽しかった。自分が新潟から来たというと、大島は佐渡の9分の1、淡路島の6分の1くらいの大きさでねえという面積の話に始まり、ここにきて大島情報がどんどん入ってくる。本土からの運搬の都合でガソリンは180円、乗ったタクシーはハイオクのため190円もするらしい。島の車は全部品川ナンバー。大島には一部東北の出身者がいる、なぜなら昔は冬場東北で仕事がない時期、島に来て木を焼き炭を作る仕事に来る人たちがいて、その人々が住み着いた結果だという。元町港と岡田港の出帆港の変わり方もこの人が教えてくれた。「外国人のお客さんにこれを説明するのは面倒でしてね、まあsafer portを使うって言っとく。以前はpeaseful portって言ってたけどそれじゃ幼稚だと言われましてね」と笑っていた。

 

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ジェットフォイルに乗り、昼前に熱海に着く。ここから友人と合流して伊豆半島を旅行したり、東京近郊を数日ふらふらと彷徨ってから帰宅した。車があると交通機関の時間に縛られずに自分のペースで旅行できるので良い。最近は大して目的もなく適当な旅行をすることが自分の中で救いになっているので、気軽に行けるようにもっと時間とお金の余裕が欲しいと思う。気ままに知らない土地へ行って、何をするでもなくのんびりと過ごしたい。それなら近場の適当な温泉でも良い気がしないでもない。でも本当に心を休めるには、忙しない日常を送っている自分が住む街から物理的に遠い距離を移動する、ということが案外重要な気がする。自分にとっての旅行は日常からの逃避だ。いつも遠くへ行きたい。