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2022年良かったもの

 

f:id:ngcmw93:20230107221835j:image映画『C’mon C’mon

2022年の個人的ベスト映画。本当に良い。

叔父と甥っ子の心の交流の話であり、大人から子供へ、そして子供から大人へ向ける視点の話だった。

ジャーナリストの仕事をするジョニーは、姉の子供、つまり甥っ子のジェシーをしばらく預かることになる。子供はまっすぐで、容赦ない。ジェシーは風変わりな9歳の男の子で、大人たちが直視しない本質を「どうして?」とストレートにぶつけてくる。なぜ離婚したのか。なぜ大人は仲良くできないのか。ジェシーが「親がいない子供のやつやっていい?」と聞いてくるシーンが好き。途中、大人が子供に全面的に「負ける」シーンがあるのが良かった。飛行機に乗るための移動中、全く言うことを聞かずトイレに閉じ籠るジェシーに、叔父のジョニーが完全にお手上げになる。逡巡の後に、開き直って飛行機は諦めてとことん付き合おう、と相手と同じ目線まで歩み寄ったことで、二人に信頼関係が築かれる。一切を放り投げる負けっぷりは大事だ。よく考えたら大人側が割と負ける(折れる)シーンはたくさんある。喋る歯ブラシを買うシーンとか。

「カモン」は来いよ、とかおいで、の意味だと思っていた。しかしこの字幕訳は「先へ」となっていてとても良かった。「未来は考えもしないようなことが起きる、だから先へ行かなきゃいけない、どんどん先へ、先へ先へ…」

全編モノクロの映画って久しぶりに観たけど、目に入る情報が限られるせいか台詞とストーリーに没入できてかなり良かった。あと、エンドロールの始まる一瞬、画面が青くなり「…D-マンに捧げる」と字幕が出る。一面の青の映画といえばデレク・ジャーマンの『BLUE』だ。やはりエイズで亡くなったのかな、と思って調べたらこれはデバンテという名の少女が街でただ座っていただけなのに銃で撃たれて亡くなったためらしい。ジェシー役を演じた男の子、ティモシー・シャラメに憧れて俳優になったらしくて色々凄い。A-24の系譜…。

 

 

アイアン・スカイ [DVD]アイアン・スカイ』『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』

公開は結構前だけど最近観た。面白すぎる。"ナチスが月から攻めてきた!?"というキャッチコピーで最高のバカ映画を期待して観たら期待を遥かに超えるふざけっぷりだった。第二次世界大戦から数十年経った現代、密かに月の裏側で存続していたナチスの一味が地球を征服しにやってくる。選挙のことしか頭にないアメリカ大統領は「戦争をすれば二期目も勝てる」と大喜びでナチを迎え撃ち、連合艦隊はナチと宇宙戦争を始める。最高だ。

(以下、字幕版における名言集)

「なるほど…君は月に行って改造されて、白人のホームレスになったが、元は黒人のモデルなんだな」「そうです」

「ドイツ野郎のケツに核をぶち込んでやります」

「宇宙平和条約は無視?みんなサインしたくせに!」

「巨大ちんぽ宇宙船に照準、撃ち方用意」

作中、ナチ勢は親切にも黒人を薬で白人にしてあげたり、ヒトラー式の演説を大統領に仕込んだりする。スターウォーズスタートレックブレードランナーと大ネタのパロディをやりたい放題やるんだけど、なんといっても一番笑ったのは『総統閣下はお怒りのようです』でお馴染みのあの演説シーンを完全パロディしたこと。とことん完璧にふざけ倒してる。かなりお下劣な内容なので製作陣が各方面から怒られないか心配だが、ここまでナンセンスだと誰もが呆れて叩かれない気もする。定期的にこういう映画を摂取するのは健康にいい。続編もアホだった。ジョブズ教がApple製品に祈りを捧げたり、ロシア製のいにしえのメカが活躍する。地球空洞説は本当だったらしい。

 

 

ゴールデンカムイ

あまりにも強い物語を摂取すると、感情がぶっ壊れて体が震えて動けなくなるのだと知った。本当に。何回でも心を揺さぶられる。特に第130話あたりからの終盤、感情のやり場に困って叫びたかった。物語の凄まじさに打ちのめされた。尾形……。

史実を物語に織り込むことで「本当にあったかもしれない」ストーリーとして説得力が増し深みが出てるのも良い。鯉登少尉の父、鯉登司令官が乗っている設定の駆逐艦の「雷」は実際に函館港沖で沈没している。連載終了後の野田サトル先生のインタビューを読んだ。人生を懸けて打ち込んで作ることでこんな傑作をものにして、それが完璧に終わらせられたら、どれほどの快感だろうか。

 

 

『マリッジトキシン』

いまジャンプ+で読める連載で1番面白い。かなり無茶苦茶な設定を勢いと面白さでサラッと読ませるのは天才の技だ。コマの端でサラッと描かれるような小ネタも楽しい。登場する敵キャラ全員が魅力的で、そこまで深く過去編をやることなくちょっとした絡みと戦闘シーンだけで応援したくなるキャラになる。恐ろしくテンポがいい。演出が上手すぎる。漫画ならでは、って手法だと思う。もしこれが小説だとしたら、文章で表現するのは野暮だし、もし映像でやろうとしたらごちゃごちゃすると思う。漫画の強みだ。

 

 

とがる『生きた証』


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個人的ベストトラック。何度聴いても感動する名曲だ。自分のバンドで以前対バンしたことがある、とがるというバンド。正確にはソロプロジェクトらしい。今年の夏はひたすらこの曲が入った2ndを聴いた。

岩井俊二っぽさというか、淡い色彩のフィルターがかかった映像で「青春の終わり」を歌うMV、完璧じゃん…と思う。

 

 

österreich『遺体』


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ベストMV。曲も映像も好きだ。全てが美しいカットだ。でもバチバチにキマってる構図ばかりではなくて、割と街で見かける、暮らしの中でふと目に留まるような良い風景、ってくらいの画で見ていて飽きない。高橋國光氏がスーパーバイザーとしてクレジットされてるけど、こういった何百ものカットを一本の作品に仕上げる時、監督はどうやってまとめているんだろうか。統一感があって丁寧な映像を見るたびに、作り手がカットを取捨選択して並べる制作風景に思いを馳せてしまう。

 

 

ホームシアター

買ってよかったもの。今のアパートに引っ越してから半年が経つがいまだにテレビがない。引っ越した当初はそのうち買おうかな、と思っていたが、無くても全然平気、むしろ余計な情報が入らないから静かで良い。しかし映画はMacじゃなくてデカい画面で観たい。という訳でホームシアターを導入したらQOLが結構上がった。11月から週1本のペースで映画を観てる。一方、MVとZINEの制作で酷使した7年目のMacはついに壊れてしまった。文フリまではギリギリ持ってくれたことに感謝したい。ボーナスで買い替える予定。


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今年観た映画の一覧。『C’mon C’mon』がぶっちぎりの一位、次いで『メランコリック』。これは2019年の映画だけれど。やっぱ殺し屋が出てくる映画が好き。ちょっとファブルっぽかった。

 

ラジオ

ここ3年くらいずっとハマっているけれど、今年は特によく聴いた。家事をする時や、散歩しながら、車を運転しながらずっと聴いてる。暮らしに欠かせないものになった。もはや習慣であり、生活の一部だ。パーソナリティのエピソードトークを何年にも渡って毎週聴いていると、その存在がとても近いものに感じられる。家族よりは遠いけど、時々会う友達よりは近い、独特な距離。毎日顔を合わせる職場の同僚とかが近いかもしれない。テレビプロデューサーでありオールナイトニッポン0の水曜日担当、佐久間宣行が言ってた「ラジオをやってると、日常の中であった失敗が、全部ラジオのトークゾーンのネタになる」という話が良い。生きていると本当に色々あるけれど、みんな笑い話にしたい。