小説の作者あとがきが好きだ。他者がその作品について書く解説や書評ではなく、作者自身が作品を振り返って語る文章のことだ。作者にしか書けない情報が書いてあり、ここを読むと読後感が深まり余韻に浸れる気がする。時々、言い訳めいたことを書く作者もいる。ごく稀に、くぅ〜疲れました!みたいなテンションで書いてる人もいて笑ってしまう。でも小説を書き上げた時の達成感ってすごいのでその気持ちもわかる。自分は作品そのものの他に、作者の情報やその作品が作られた背景なども知りたいので、小説を読み終えたあとに作者のプロフィールを見たり、SNSまで探してつい見てしまう。作家って割と変人が多いため、そのせいで勝手に幻滅することもあるので、あまりお勧めできない。
あとがきが好きなのと同じ理由で、音楽作品のセルフライナーノートが好きだ。最近だとこれとか。昔、コピーバンドをやるためにスーパーカー『スリーアウトチェンジ』のバンドスコアを買ったらメンバーの曲解説とインタビューが載っており「俺たちは他人のコピーはほとんどやらなかった、音楽をやるなら自分たちでオリジナル曲を作った方がいい」と言っていた。学生の頃はそれがわからなかったが、今では自分もその通りだと思う。
【特に好きなあとがき4選】
・滝本竜彦『NHKへようこそ』
・飛浩隆『グラン・ヴァカンス』
・豊島ミホ『陽の子雨の子』
・佐藤正午『夏の情婦』
滝本竜彦『NHKへようこそ』
文庫版には単行本としてこの小説が世に出たときのあとがきと、その後文庫版発売時に書かれたあとがきの両方が収録されている。文庫版あとがきが好きだ。あまりに人間臭くて。3年経っても何も書けていない作者のどうしようもない状況がユーモアを交えて書いてある。
「まだまだ小説を頑張ります」と書いてから数年が経過した。私は頑張らなかった。まだ新しい小説を一冊も書いていないのが頑張っていない証拠だ。現在の私は本作の印税に寄生して暮らすニートに成り果てていた。
この笑える(笑えない)書き出しに始まり、その後苦しい状況についてぐだぐだ書いてあるのだが、最後は爽やかに終わっているのも良い。少し前に文フリで滝本先生本人から続編を買えたのは嬉しかった。
飛浩隆『グラン・ヴァカンス』
正確にはあとがきではなく「ノート」であり、作者による妻への献辞である。名文だと思う。飛先生は地方で働きながら創作を続ける全ての人間の希望だ。10年に1作くらいのペースでしか長編出ないけど。途方もない時間をかけてひとつの作品と向き合う執念。SFに何の興味もない一人の人間(妻)の存在が、2度も日本SF大賞を受賞した大作家を支え続けた事実と、その一人にこの長編が捧げられたことに泣ける。飛浩隆先生の奥様に感謝したい。
My Bloody Valentineが『Loveless』のレコーディングに2年以上(と莫大な費用)を費やした話とか、中村一義が『状況が裂いた部屋』に篭り数年かけて一人で『金字塔』を作り上げたエピソードが好きなんだけれど、膨大な時間と労力が形となった作品からは、なにか途轍もない執念を感じる。この『グラン・ヴァカンス』からは、というか筆者の小説からは全てこの執念を感じる。作品は内容だけで評価されるべきなのかもしれないが、自分は作品が生まれる背景を知るのが好きだ。
豊島ミホ『陽の子雨の子』
初めて読んだのは大学4年、卒業旅行でニュージーランドへ行くために空港へ向かう新幹線の中だった。ほんわかした絵の表紙と、主人公は小学生の男の子という設定で穏やかな物語なのかと思っていたらとんでもなかった。どこか壊れた年上のお姉さんに家へ誘われた主人公は、手足を縛られて押し入れに押し込まれ、襖の隙間からズブズブの共依存状態の男女がセックスする様子を目撃させられる。突然の地獄。こんな目に遭ったら性癖を派手に歪められて人生狂わされると思う。これでも「初稿はもっと過激だった」という。人生に行き詰まりを見せているまだ若い男女と、純粋な小学生の主人公の奇妙な夏の物語だった。
あとがきでは、筆者が学生の頃に家出して、新潟まで辿り着いた話に触れている。水族館に行ったという。自費出版でもなんでもいいからどうしてもこの本を世に出したかったと言っていて、執念が感じられる。とてもいい文章だった。
佐藤正午『夏の情婦』
短いがとても良い文章。本編は1986年から1988年に書かれた短編が5編収録された短編集で、あとがきは文庫版が出た2017年に書かれている。タイトルは「三十年後のあとがき」。ひとりの人間が書く文章は日々変わるもので、今日書いた文章は、今日のみのもので明日は書けない、といったことが書かれている。そして、三十年前の自身の短編について、どれも「書かれるべきときに書かれた」と表現している。若い頃の作品について「今でも面白いと思っている」と自信を持って言っているのはかっこいい。本編の作品はどれも素晴らしかった。「恋人」という一編が特に気に入っている。姿子という強力なヒロインが登場する。男は皆、しなこのような女に人生をめちゃくちゃに壊されたいのかもしれない。ピロウズの曲の歌詞に出てきそうなヒロインだ。



