状況が裂いた部屋

旅行と読書と生活

『出会って4光年で合体』

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とんでもなく面白い。久しぶりに漫画を一気読みした。漫画の体裁だが小説的な要素もあり、382ページの分量をしっかりと読み切るのに半日を要した。凄まじい情報量の、とても重厚な物語だった。中学生の性欲、完璧な女の子、狐憑き、島の風習と伝承、長閑な田舎の風情、歪な管理社会、超伝導量子コンピューターおばあちゃん、素因数分解、不気味な空気、何かを忘れている感覚、おまじない、狐と狸。そしてアナルビーズ。登場するもの全てが意味を持ち、点と点が繋がり、田舎の島から4光年先へ物語が跳躍する。このカタルシスは一気に読まないと得られなかったと思うし、一気に読ませる絵の上手さと予想もつかない展開が全編に詰め込まれている。

特に好きなエピソードは、主人公のクラスメートの母親(作家)が急に活動家になり、猪のお面を被った過激派として7年活動後島に帰還し、30万字のエログロ小説を電子書籍で出版するものの発禁になる、という件だった。全然本筋に関係ない人と思いきや、彼女は物語の後半にキーマンとして再登場する。

どこまでも壮大なスケールと、痛い切なさがあった。科学もオカルトもフィクションもノンフィクションも、面白さを作るひとつの要素になっていた。途方もないSF作品だったし、純愛もののエロマンガでもあった。伊藤計劃円城塔も野崎まども全て飲み込み、物語に混ぜ合わされていた。後半は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』だった。どうやってこんな物語を思いついて、書こうと思い、書き切れたのか想像もつかない。馬鹿馬鹿しいほど壮大な話を読むたびに、投げ出さずにそれを形にする胆力に打ちのめされる。傑作をものにするとはこういうことなんだろう。

全編に散りばめられているネタのサンプリング元もわかるものとわからないものがあった。クラシックなSFをちゃんと読もうと思う。

仕事に疲れた土曜の朝、荒れ果てた部屋のちゃぶ台でこれを読み始め、気づいたら夕方だった。こんなに救われた気分になるのはいつ振りだろうか。そういえば自分も面白い話を書きたかったんだよな、と思い出した。