状況が裂いた部屋

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ゴールデンカムイのこと

あまりにも強力な物語に打ちのめされて、仕事帰りのドトールでしばらく呆然としていた。受け止めきれない。苦しくて読み進められない。それでもスマホを開き、2回3回と読み返してしまう。あらゆる感情が溢れてきてコントロールできなかった。この物語を消化し、受け入れるのに長い時間を要した。ゴールデンカムイ310話のことです。尾形、お前って奴は……。なんて凄惨な死に様だ。なんて生き様だったんだ……。

 

その後、ゴールデンカムイの全話無料開放で感情をめちゃくちゃにされた私は快活クラブで単行本で全巻読み返し、更に感情を抉られていた。

実は白石や鶴見より先に登場していた尾形(第2話)、最初は坊主でモブっぽいキャラだったのに、ここまで大きな存在になるとは思わなかった。凄腕の狙撃手で第七師団長の妾の子。土方歳三と行動を共にしたり、後半右眼を毒矢で撃たれて義眼になったり、何故かロシア語を話せたりと要素が多すぎる。猫目で、キザな喋り方で、敵なのか味方なのか分からない得体の知れない隙のない男。一回だけ「ヒンナ」って言って、あの時はやっとアシリパたちと心が通じるかと思ったのに。地獄行きの特等席に乗りやがって…。そしてあの死に様。毒で錯乱する中、自分が手に掛けた父親、弟、(恐らく)母の死に方全てを負って、自ら引き金を引くあの最期……。最終話で出てくる絵『山猫の死』。ヴァシリは生きていて、尾形を描いて弔ったのか?考察の余白を残すのも凄い演出だ……。

再読して、キャラ一人ひとりのエピソードの強さに驚く。作者は設定をどれだけ作り込んだのか。鶴見が、暴走する機関車で杉元との戦闘中、妻と娘の遺骨を砕かれたときのあの表情。狡猾で底の知れない、前頭葉が吹き飛んだ軍人が見せる人間らしい表情。怒涛のクライマックスであの一瞬があるのは本当に凄い。月島や谷垣も、暗い過去があるキャラがそれを抱えたまま生きている。金塊争奪戦という本筋が霞むくらい、サイドストーリーが深く面白い。杉元がなんで金が欲しいのか最終話を読むまで忘れていた。

 

 

f:id:ngcmw93:20220530211543j:image以下、ゴールデンカムイ展のこと。ファンが満足できる最高の展示だった…。

 

f:id:ngcmw93:20220530211919j:image杉元の軍帽のモデル品。つまり菊田から杉元に贈られたものか。

f:id:ngcmw93:20220530211840j:imageうお…尾形の三八式歩兵銃のモデル…。

f:id:ngcmw93:20220531201901j:imageまだ両目ある時だ。

キロランケのマキリも、キラウシの着物もある。

展示をじっくり観て回ると、物語の細部にまた気付きがあって面白い。そういえば宇佐美も新潟の出身だったか、鶴見を崇拝してたもんな…。

 

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f:id:ngcmw93:20220530212115j:image24人の刺繍の囚人の中でも特に好きな3人。姉畑支遁…。

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f:id:ngcmw93:20220603073335j:imageあと剥製職人・江渡貝弥作の紹介がふざけ過ぎてて良かった。鶴見中尉と江渡貝の絡みも好き。第七師団周辺のイカれたキャラみんな好きだった。

 

中盤の少数民族の文化の解説が丁寧でよかった。アイヌの他にも樺太編で登場する民族についての説明が面白い。ニヴフ族やウイルタ族など。もちろんアイヌの道具、風習なども展示がある。チプタプの料理サンプルとか。


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f:id:ngcmw93:20220530212936j:imageあと、今更ながら野田サトル先生の絵は本当に構図がかっこいい。これだけ絵で語れないと、最終盤の杉元と鶴見中尉の台詞無しバトルシーンとか描けないよな…。とことん作り込まれた設定と、妥協のないバキバキにキマッた画、傑作になる条件が全て揃ってて、売れるべくして売れたのだな…。ストーリーの凄さに夢中だったけど、そんな今更な部分を思い知らされた。


展示は大盛況でめちゃくちゃに混んでいた。客層は20〜40代くらいの女性がかなり多かった。青年誌のヤンジャン連載の漫画でこれほど女性人気があるのは凄い。グッズは悩んだ末にずっと飾れるものを買った。本当は「第七師団お風呂セット」が欲しかったが売り切れだった。


f:id:ngcmw93:20220530211324j:image入場者特典は鯉登少尉!キェーッ(猿叫)


f:id:ngcmw93:20220531060012j:imageアクリルジオラマを入手。 一番いい場所に飾る。


今後も単行本の発売、アニメ第四期が2022年10月放送開始、そして実写映画化と連載が完結してもまだまだ話題は尽きない。まずはアニメを観るか、単行本をまた読み返すか、楽しみがあるのは幸せだ。野田サトル先生ありがとう…。