状況が裂いた部屋

旅行と読書と生活

バンドのMVの話と、制作にかける時間の話

○  バンドのMVの話


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バンドのミュージックビデオを作った。この一年強で3作目(アルバムティザーを入れたら4作目)。ちょっと作りすぎかもしれない。割と力を入れて撮った作品。

撮ったといっても最近撮影した映像は1カットもなくて、全て2016〜2018頃のバンド結成〜活動初期に撮り溜めた映像を編集したものだ。みんな若い。なんとなくのストーリーというか、流れを持たせる構成にした。2番サビのライブシーンでクライマックスになる構成。フィルムダメージのフィルターをかけているが、雰囲気を出すためというよりもそのままの画質だと暗いスタジオ映像が粗すぎるために誤魔化すためだ。カラーグレーディングとか全然使いこなせてない。小節ごとでカットを切り替えているせいで少し野暮ったいのは反省点だ。星野源が「MVのカット割は小節に合わせないことで独特なグルーヴが作れる」と言っていた。まだその技を会得できていない。

・元ネタ: LOSTAGE『NEVERLAND』


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今回は明確にこれのオマージュのつもりで作った。気付く人はいるんだろうか。制作中に50回以上聴いたけど本当に良い曲、良い映像だ。

 

映像の編集は楽しい。撮る時よりも楽しいかもしれない。ここ数年、バンドに限らずたくさんのMVを見続け、主にネットで映像制作の勉強をして、ようやくなんとなく映像を作れるようになった。一番最初に衝撃を受けてこういうのを作りてえな、と思ったのは学生の頃ハマった禁断の多数決の『トゥナイト、トゥナイト』のMVだった。あまりにも癖が強く、情報量が多すぎるのに美しい、とんでもない傑作だ。今でもモチベーションになっている。とても真似できるものではないけど、見返すたびに学ぶものがある。

自分はダヴィンチリゾルブ(無料版)を使っている。1年使ってもまだ手探りで、機能をネットで調べながら使っている。フィモーラよりも慣れると使いやすい。佐久間信行はテレビ業界の編集はFinal CutかAdobe Premiereを主に使うと言っていた。興味はあるが、とりあえずダヴィンチに自分がやりたい機能は揃っているのでこれを極めたい。あとはカメラを買うかずっと悩んでいる。車のローンを払い終われば次のボーナスで買うのだが。iPhaneの手軽さと機能性に慣れ過ぎている。もっと本格的に撮りたい。

 

 

○ 制作にかける時間の話

このMVの曲を含む2曲入りシングルを5月に発売する。レコーディングが完了してからマスタリング終了まで丸3年かかった。時間がかかりすぎだと思う。とにかく出せて良かった。

創作をする上で、作ってから発表するまで時間がかかることはよくある。なんなら開発地獄に陥ってずっとお蔵入り状態、みたいなものも世の中にはきっと多くあるんだろう。そういった作品が何十年の時を経て世の中に出たとき、制作した側も受け取る側も、何か得することなんてあるのか...? とやや批判的に考えてしまう。作品は、世に出て人の目に触れることで初めて作品になるという言説は本当にその通りで、せっかく作ったものが誰の目にも触れられずにハードディスクの隅で眠っているのは残念なことだ。どんなに個人的なものでも、自己満足でも、匿名でいいからネットの海にでも放り投げておけば誰かの目に触れるかもしれない。完成まで熱量が続かなかったとか、作るのに飽きただとか、そういう事例を時々聞く。未完成に終わったその作品の存在や、それを作っていた時間とか、そういったものに思いを馳せて少しやるせない気持ちになる。それはあくまで習作というやつで、その後に作る作品に活かせればいいという考えもあるのかもしれない。

少しズレるが、作曲をする友達が作った曲をすぐに出さないことを「発酵させる」と表現していた。一旦寝かせておくことに意味を見出している言っぷりだった。今度会ったら詳しく聞きたい。

 

 

 

『シャドウ・ダイバー 深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち』

 

面白かった。程よいページの多さと重厚な人間描写で読後はかなりの余韻があった。レック・ダイビング=難破船の発掘ダイビングに挑む男たちのノンフィクション。


構成がとても秀逸だった。ジョン・チャタトン、リッチー・コーラーらのダイバーが調査を進める様子を軸に、ふたりのこれまでの半生、生き様や信条が描かれる。下巻の後半に差し掛かるところで「戻らぬ覚悟」と題した、戦場へ向かうドイツ軍Uボート部隊の乗組員の人生が描写される章がある。二人の子がいる艦長、弱冠22歳の副艦長、婚約者がいる通信士、その他10代の乗組員たち。この章によって、本書のストーリーの本筋が「大西洋に沈む謎の潜水艦の正体を解き明かすこと」だったのが「潜水艦の正体を解き明かし、死んでいった乗組員の魂を弔うこと」に変わっていく。戦時中は何よりも恐れられ、戦後は誰にも知られることなく何十年も海底に沈んでいたU-ボートも、実際に動かしていたのは生身の人間なのだ。しかも、その大半はまだ二十歳前後の若者たちであり、それぞれの暮らしがあった。ここに描かれているエピソードは想像による部分も多いと思われる。全員がナチスの思想にかぶれている訳ではなく、ただ時代のせいで戦争へ行った若いドイツ人がいたことを知ることができた。そして、ラストで慰霊のために乗組員の遺族を尋ねるコーラーのエピソードで驚くことになる。まさか、元乗組員の生き残りが一人だけいたとは……。とてもドラマチックな展開だった。


その他、特に上巻の第4章・ジョン・チャタトンの人生の話が印象的だった。高卒で陸軍に志願、日本の病院勤務からベトナム戦争の最前線で活躍後一時荒れた生活を送り、ホタテ漁をきっかけにダイビングへ熱中、妻と出会い海中溶接工を経験してから30代で本格的なダイバーとして活動するようになる、激動の前半生だ。

レックダイバーたちは、ダイビングを通じて自分自身と向き合うことになる。ひとつの物事にとことん向き合うと、そこに哲学が生まれる。ダイビングについて語るうちに、気がつけば人生の話になっている、そんなエピソードがいくつもある。

危険を承知で深海を冒険し、歴史を発見すること。誰も見つけたことのない遺物の第一発見者となることに命を燃やすこと。

せいぜいあと50年程度しかない限られた自分の人生を、何に費やすのか。若いうちにそれを見つけて、一生注力することが何よりも幸せなんじゃないかと思う。一生夢中になれるものを見つけて、自分の人生の持ち時間をそれに費やすこと。これが何よりも重要なのだと気付かされる。


最近、ドキュメンタリーなどの人にフォーカスした物語に心を動かされることが多くなった。人を描く、ということは、結局はその人物の人生を描くことになる。重厚な物語を描くには、やはり登場人物の人生を掘り下げ、その行動や信条の根拠を示さなくてはならない。漫画でいう過去編。これがあるかないかで読み手の入れ込み方が変わってくる。波瀾万丈、壮絶にドラマチックな人生を歩んできたキャラクターが何かに挑んでいたら、それは応援したくなるものだ。この小説の主人公であるジョン・チャタトンとリッチー・コーラーの人生にはそれがある。そしてふたりの過去を知る読者は、ふたりが生涯をレックダイビングに捧げるに至る訳を知っているために、切実なまでに潜水艦の解明に時間を費やす行動に、なんの疑問もなくついていける。

 

レックダイビングを通じて、人生の真髄を知る男たちの熱い物語だった。中盤まではミステリのような要素もあり、かなり満足度の高いノンフィクションだ。

2022年良かったもの

 

f:id:ngcmw93:20230107221835j:image映画『C’mon C’mon

2022年の個人的ベスト映画。本当に良い。

叔父と甥っ子の心の交流の話であり、大人から子供へ、そして子供から大人へ向ける視点の話だった。

ジャーナリストの仕事をするジョニーは、姉の子供、つまり甥っ子のジェシーをしばらく預かることになる。子供はまっすぐで、容赦ない。ジェシーは風変わりな9歳の男の子で、大人たちが直視しない本質を「どうして?」とストレートにぶつけてくる。なぜ離婚したのか。なぜ大人は仲良くできないのか。ジェシーが「親がいない子供のやつやっていい?」と聞いてくるシーンが好き。途中、大人が子供に全面的に「負ける」シーンがあるのが良かった。飛行機に乗るための移動中、全く言うことを聞かずトイレに閉じ籠るジェシーに、叔父のジョニーが完全にお手上げになる。逡巡の後に、開き直って飛行機は諦めてとことん付き合おう、と相手と同じ目線まで歩み寄ったことで、二人に信頼関係が築かれる。一切を放り投げる負けっぷりは大事だ。よく考えたら大人側が割と負ける(折れる)シーンはたくさんある。喋る歯ブラシを買うシーンとか。

「カモン」は来いよ、とかおいで、の意味だと思っていた。しかしこの字幕訳は「先へ」となっていてとても良かった。「未来は考えもしないようなことが起きる、だから先へ行かなきゃいけない、どんどん先へ、先へ先へ…」

全編モノクロの映画って久しぶりに観たけど、目に入る情報が限られるせいか台詞とストーリーに没入できてかなり良かった。あと、エンドロールの始まる一瞬、画面が青くなり「…D-マンに捧げる」と字幕が出る。一面の青の映画といえばデレク・ジャーマンの『BLUE』だ。やはりエイズで亡くなったのかな、と思って調べたらこれはデバンテという名の少女が街でただ座っていただけなのに銃で撃たれて亡くなったためらしい。ジェシー役を演じた男の子、ティモシー・シャラメに憧れて俳優になったらしくて色々凄い。A-24の系譜…。

 

 

アイアン・スカイ [DVD]アイアン・スカイ』『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』

公開は結構前だけど最近観た。面白すぎる。"ナチスが月から攻めてきた!?"というキャッチコピーで最高のバカ映画を期待して観たら期待を遥かに超えるふざけっぷりだった。第二次世界大戦から数十年経った現代、密かに月の裏側で存続していたナチスの一味が地球を征服しにやってくる。選挙のことしか頭にないアメリカ大統領は「戦争をすれば二期目も勝てる」と大喜びでナチを迎え撃ち、連合艦隊はナチと宇宙戦争を始める。最高だ。

(以下、字幕版における名言集)

「なるほど…君は月に行って改造されて、白人のホームレスになったが、元は黒人のモデルなんだな」「そうです」

「ドイツ野郎のケツに核をぶち込んでやります」

「宇宙平和条約は無視?みんなサインしたくせに!」

「巨大ちんぽ宇宙船に照準、撃ち方用意」

作中、ナチ勢は親切にも黒人を薬で白人にしてあげたり、ヒトラー式の演説を大統領に仕込んだりする。スターウォーズスタートレックブレードランナーと大ネタのパロディをやりたい放題やるんだけど、なんといっても一番笑ったのは『総統閣下はお怒りのようです』でお馴染みのあの演説シーンを完全パロディしたこと。とことん完璧にふざけ倒してる。かなりお下劣な内容なので製作陣が各方面から怒られないか心配だが、ここまでナンセンスだと誰もが呆れて叩かれない気もする。定期的にこういう映画を摂取するのは健康にいい。続編もアホだった。ジョブズ教がApple製品に祈りを捧げたり、ロシア製のいにしえのメカが活躍する。地球空洞説は本当だったらしい。

 

 

ゴールデンカムイ

あまりにも強い物語を摂取すると、感情がぶっ壊れて体が震えて動けなくなるのだと知った。本当に。何回でも心を揺さぶられる。特に第130話あたりからの終盤、感情のやり場に困って叫びたかった。物語の凄まじさに打ちのめされた。尾形……。

史実を物語に織り込むことで「本当にあったかもしれない」ストーリーとして説得力が増し深みが出てるのも良い。鯉登少尉の父、鯉登司令官が乗っている設定の駆逐艦の「雷」は実際に函館港沖で沈没している。連載終了後の野田サトル先生のインタビューを読んだ。人生を懸けて打ち込んで作ることでこんな傑作をものにして、それが完璧に終わらせられたら、どれほどの快感だろうか。

 

 

『マリッジトキシン』

いまジャンプ+で読める連載で1番面白い。かなり無茶苦茶な設定を勢いと面白さでサラッと読ませるのは天才の技だ。コマの端でサラッと描かれるような小ネタも楽しい。登場する敵キャラ全員が魅力的で、そこまで深く過去編をやることなくちょっとした絡みと戦闘シーンだけで応援したくなるキャラになる。恐ろしくテンポがいい。演出が上手すぎる。漫画ならでは、って手法だと思う。もしこれが小説だとしたら、文章で表現するのは野暮だし、もし映像でやろうとしたらごちゃごちゃすると思う。漫画の強みだ。

 

 

とがる『生きた証』


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個人的ベストトラック。何度聴いても感動する名曲だ。自分のバンドで以前対バンしたことがある、とがるというバンド。正確にはソロプロジェクトらしい。今年の夏はひたすらこの曲が入った2ndを聴いた。

岩井俊二っぽさというか、淡い色彩のフィルターがかかった映像で「青春の終わり」を歌うMV、完璧じゃん…と思う。

 

 

österreich『遺体』


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ベストMV。曲も映像も好きだ。全てが美しいカットだ。でもバチバチにキマってる構図ばかりではなくて、割と街で見かける、暮らしの中でふと目に留まるような良い風景、ってくらいの画で見ていて飽きない。高橋國光氏がスーパーバイザーとしてクレジットされてるけど、こういった何百ものカットを一本の作品に仕上げる時、監督はどうやってまとめているんだろうか。統一感があって丁寧な映像を見るたびに、作り手がカットを取捨選択して並べる制作風景に思いを馳せてしまう。

 

 

ホームシアター

買ってよかったもの。今のアパートに引っ越してから半年が経つがいまだにテレビがない。引っ越した当初はそのうち買おうかな、と思っていたが、無くても全然平気、むしろ余計な情報が入らないから静かで良い。しかし映画はMacじゃなくてデカい画面で観たい。という訳でホームシアターを導入したらQOLが結構上がった。11月から週1本のペースで映画を観てる。一方、MVとZINEの制作で酷使した7年目のMacはついに壊れてしまった。文フリまではギリギリ持ってくれたことに感謝したい。ボーナスで買い替える予定。


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今年観た映画の一覧。『C’mon C’mon』がぶっちぎりの一位、次いで『メランコリック』。これは2019年の映画だけれど。やっぱ殺し屋が出てくる映画が好き。ちょっとファブルっぽかった。

 

ラジオ

ここ3年くらいずっとハマっているけれど、今年は特によく聴いた。家事をする時や、散歩しながら、車を運転しながらずっと聴いてる。暮らしに欠かせないものになった。もはや習慣であり、生活の一部だ。パーソナリティのエピソードトークを何年にも渡って毎週聴いていると、その存在がとても近いものに感じられる。家族よりは遠いけど、時々会う友達よりは近い、独特な距離。毎日顔を合わせる職場の同僚とかが近いかもしれない。テレビプロデューサーでありオールナイトニッポン0の水曜日担当、佐久間宣行が言ってた「ラジオをやってると、日常の中であった失敗が、全部ラジオのトークゾーンのネタになる」という話が良い。生きていると本当に色々あるけれど、みんな笑い話にしたい。

 

 

2022年を振り返る

 

結構充実した一年だった。特に創作面。2、3年停滞していた様々な物事が、長いトンネルを抜けてようやく形になった。


今年作った、自分が関わった作品

drama『紡ぐ』demo ver.MV(ベース,MV)

旅行記ZINE『香港紀行』

・掌編集『諸相 vol.1』

・drama 2nd mini album 『nocturne』(ベース)

『nocturne』トレーラー映像

『yokaze』MV

旅行記ZINE『島ZINE』

・掌編集『諸相 vol.2』


バンドが活動を再開すると同時に、色々とやる気が出て一気に本を作った。ひとつ物事が上手く転がれば、諸々がうまくいくこともある。急に創作のスイッチが入った。 5月に文フリ東京へ行ったことも刺激になった気がする。学生や老人、アマチュアから有名作家まで、分け隔てなく同じ会場で自作を売っている環境を体験して、自分もここに参加したいと強いモチベーションが生まれた。好きな書き手から情報を仕入れて、編集や入稿の仕方を自分なりに調べまくったら本ができた。手探りで作った2冊を持って7月にZINEのイベントに参加、そして意外と売れたのに気を良くしてさらに2冊作り、その勢いのまま11月の文フリ東京35にサークル出展、と半年で一気に状況が動いた。これまでも細々と文章は書いていたけれど、やはりきちんと製本して、手触りのある形に残せたのは嬉しい。そして、読んでくれる人がいると気付くのは、人に読まれることを意識して書くことに繋がる。これまでの文章は自分のためだけに書いていたけれど、読者を想定して書くようになったら表現や体裁に気を配るようになった。句点の打ち方から言い回しに至るまで、隅々まで注意するようになったのは良いことだと思う。まだ全然下手だけれど。自作を読み返すたびに校正漏れを発見して呻いている。憧れる書き手の発信する情報をかき集め、真似して、自分なりに消化して本をつくる作業は本当に面白かった。なるべく毎日読んで書くことが大事なんだとつくづく実感する。日々の小さな積み重ねでしか遠くへ行けない。

10月頃には一回ペースが落ちて、創作に取り組む時のあるある「やる気が満ちれば爆発的な集中力で一気に作れるのに、やる気に火がつくまでが長く、時間だけが過ぎていく」という問題に悩まされた。

毎日遅くまで働いて、生活して、人付き合いもしていたら、創作に向けるエネルギーなんて全然残らない。ひとりで生活を回すのって本当に大変だ。それでも毎日摂取してる小説や漫画やアニメに励まされて、まあやるか…と黙々と作業するうちにいつの間にか完成したりする。どんなに終わりが見えなくても、作り続けていればいつか終わる。好きな音楽を流したり、数少ない成功体験を思い出しながらひたすら手を動かすしかない。様々なエンタメに何度も心を救われてきたので、いつか同じくらい面白い話を書けたらいいなと思う。 

 

いくつかの制作の苦しみを経て、ようやく少し創作面でのコツみたいなものを掴んだ気がする。緩くてもいいから、エンジンをかけ続けること。頭に浮かんだアイデアを書き出して、毎日少しでもそれをなぞると、ふとした瞬間に膨らんで発展する閃きが降りてくることがある。毎日向き合うことが重要だとわかった。全く降りてこないアイデアは思い切ってボツにするけど。とりあえず一つのプロットに一ヶ月くらいは向き合うべきだ。結構根気がいる。スティーブン・キングは書くと決めたらクリスマスも独立記念日も誕生日も関係なく、毎日最低二千語を書くらしい。それを50年。途方もないことだ。


そして何より、創作は楽しい。もちろん制作のうち90%くらいは孤独で苦痛ばかりなんだけど、それでも完成すれば楽しかったと思える。苦しみながら物を作ってる時が一番生きてる実感がある。完成したときの達成感、充実感は本当に何事にも代え難い。締切に追い込まれ、力量のなさに嫌気が差してジタバタする、そんな自分を笑いながらやってる。


ベースを弾くことに関しては、もう技術面でのびしろは無いのかな…などと思っていたけどそれは練習していないだけで、youtubeを観ながら基礎練習をやったり、真剣に時間をかけてフレーズを考えたら意外と納得できるベースラインが弾けた。勝手な思い込みで壁を作るのは自分の悪い癖だ。思えば大学1年の冬、初めてオリジナル曲をやるバンドを組んだ時も「楽譜を読めない人間はオリジナルバンドを組んではいけない」という謎の思い込みがあり、かなり恐る恐る弾いていた。五線譜なんて読めなくてもバンドはできるし、音楽理論なんて知らなくても曲は作れる。うちのバンドのメンバーは多分全員TAB譜しか読めない。

大学を卒業し働き出してすぐの春に、現在のバンドに誘われた時も「社会人になったらバンドはできない」との思い込みがあった。しかし打診を断ったところでキッズ・リターンの「まだ始まってもいねえよ」ばりの言葉を投げつけられ、なんやかんや加入し、かれこれ6年以上続いている。やってみるものだ。正直、新譜はそこまで売れてないし、再生数も伸びている訳ではない。そこそこ頑張って作った動画の再生回数も止まっている。

でも、このバンドという本気の趣味は、メンバーたちの自己満足な部分が大きいし、人のために曲を作ってあげるなんて、そんな烏滸がましい考えはない。アマチュアなので。

それでも、自分たちの知らない遠いところで偶然この曲を聴いた人が、なんか感動してくれているかもしれない。作品を世に出すことには、そういうロマンがあるから面白いと思う。まずは自分たちが演奏して満足する曲をたくさん作りたい。今年は手応えのある作品を形にできたと思っている。


自分は現在、趣味で執筆と音楽と映像制作をやっているけれど、取り組む時間の割合は8:1:1くらいだ。映像は楽しいので割合を増やしたいけれど、撮りたいものが定まってないのでバンド関連の映像しかない。機材を揃えていつか本格的にやりたい。とにかく、今年はずっと足踏みが続いていた自分の人生が、また前進を始めた、そんな感覚がある。何か新しいことを習得したり、ものを作ったりするときの楽しさを思い出した。この「何か前に進んでいる感じ」を味わうこと、これが人生に必要なもののような気がする。忘れないようにしたい。

 

 

20代も終わりが見えてきたので、自分の創作に向けられる残り時間を意識するようになってきた。一生何か作ってたいけれど、時間には限りがある。気力と体力を充実させて、淡々と作り続けるしか方法はない。やっぱり創作は面白い。何かに熱中して燃えている時は生きてるって気がする。

あとはまあ、自分の年齢的にも先の人生について様々なことを考える。憧れの破天荒なアーティストも、「こちら側」だと思ってたラジオパーソナリティーも、みんな気付いたら結婚して家庭を持っているのだった。もうしばらくは自分のためだけの時間がほしいけど、そろそろ先のことも考えなくては……と思う。その辺を考える余裕を持ちたい。余裕ないんだけど。


生きていると煩わしいことにたくさん遭遇する。そんな面倒な物事と折り合いをつけて、好きなことにたくさん時間を使おうと思う。やりたくないこととは距離を置いて、やりたいことをやる。シンプルで良い。今はとにかく文章を書きまくって、面白い小説を書きたい。来年は必ず短編を書く。

酒を飲んで曖昧になってる場合ではない。

 

文学フリマ東京35を振り返る

 

目標は「会場に辿り着き、ブースを出す」「憧れの書き手に献本する」の2つだった。両方達成できて嬉しい。


直前はドタバタだった。11月18日(金)は仕事終わりにSuiseiNoboAzのライブ参戦、19日(土)は休日出勤で終日屋外での防疫業務(過酷な戦いだった…)、22時に帰宅してからコンビニで新刊を刷り、20日のイベント当日を迎える。朝方に起きてホチキス留めと包装をして、なんとか新刊が完成した。新幹線に飛び乗り、11:30に会場入り。両隣のブースに挨拶したところで看板の類を一切作ってないことに気付く。ローソンへ走って油性ペンを書い、チラシの裏にブース番号とサークル名を書いていたら拍手が聴こえた。何もわからないうちに初出展の文フリは始まった。

全1,440ブースの中で最もザコい見た目だった

10部売れたら御の字だな、と思ってたけれど結果20部売れた。ろくに宣伝もしてないのに予想より売れて満足。買ってくれた人は「ツイッターで見ました」という方がふたり居て、後は立ち読みして前情報無しで買ってくれたようだ。たぶん旅行記を片っ端から買っただけって人もいると思う(ありがたい)。「来週旅行で小豆島行くんですよ」という方とは色々話せてよかった。「土庄町」を「とのしょうまち」と初見では読めない。本で山形県の飛島を取り上げているのを読んで、20年前に出た飛島の本(無明舎出版)をおすすめしてくれた方もいた。ブースに寄ってくれた方と話すだけでも充分楽しい。名刺を渡しまくったおかげか、ブログの閲覧数が少し増えてる気がする。


あとは2022年の個人的ベスト本『うろん紀行』の作者わかしょ文庫さんに献本できた。直接会えて、話までできてよかった。緊張していたのでサインをもらい忘れた。出版元「代わりに読む人」の友田さんの本も書い、こちらはサインもいただけた。5月の時はただの客として『準備号』を買ったけど、まさかそこから半年の間に掌編集とZINEをつくり、同じ会場で売ることになるとは思ってなかった。目標になる人を見つけられたのは大きい。

その後は第一展示場の方を一回りして、気になってた本は大体買えた。斜線堂有紀先生の本やSF誌SCI-FIRE、にゃるら氏のエッセイ、あとはマイケル・ベイの映画批評誌など。作者の方とマイケルベイの映画はもはや歌舞伎ですよねみたいな話をした。アメリカエンタメの王道だと思う。『ザ・ロック』が一番好き。

f:id:ngcmw93:20221123082241j:image5月に客として参加したときも思ったけど、文フリは本当に良いイベントだ。なんていうか、各々が好きなことを緩やかに肯定してもらえる場があることが嬉しい。シウマイ弁当の食べ方の本や映画『クライ・マッチョ』で短歌を詠んだ本、W杯の優勝予想本やDeNAベイスターズの試合観戦記などが一箇所で売られるイベント、この世に他にないだろう。偏愛が爆発している本を手に取るたびに、表現はどこまでも自由で、なんでもありなのだと思える。世の中の広さを思い知り、この文学フリマという場の懐の深さに感動する。どんな物事にも本にする需要があり、面白いと思ってくれる人がいるのだ。そんなことに気付かされる。もちろん(真面目で)上質な小説や短歌もたくさんある。商業出版ではなくても、質の高いものを個人で作り続けている人がいる。そんな諸々に励まされて、自分もやってみようと思えた。イベント二週間前に急にやる気が出てもう一冊作り始め、全然完成が見えなかったときはどうしようかと思った。でも結局無事に売れた。今年の創作を総括する意味でも、参加してよかったと心から思える。


地方都市に住む貧乏なサラリーマンなので、東京のイベントにはたまにしか行けないけれど、今後もなんとか折り合いをつけて参加したいと思う。書きたいネタはいくつもあるので、自分の本をまた作りたい。あとは雑誌や合同紙みたいな媒体で書かせてもらえるように、もっと良い文章を書けるようになりたい。イベントに出たことで毎日読んで書くぞ、とモチベーションは高まった。最近3,000文字くらいの掌編ばかり書いてるので、そろそろ短編くらいの長さを書きたい。

 

飛島旅行記②

 

○ 2日目

f:id:ngcmw93:20221001152719j:image6時に起床、カーテンを開けて即朝日を浴びる。おそらくこの島のほぼ全ての宿から海が見えると思う。

 

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f:id:ngcmw93:20221001152940j:image朝の散歩に出かける。猫がたくさんいるゾーンがあった。目についたやつだけで6匹くらいいた。とびきり人懐こいやつがいて、撫でようとしゃがんだら膝に飛び乗ってきた。しばらく撫でたが、全然離れようとしないので膝から降ろしたら腕を思い切り引っ掻かれた。

 

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f:id:ngcmw93:20221001153401j:image舘岩という岩山に登る。高さは40メートル。フェリーが到着する勝浦港が一望できる。台風が近づいているとは思えない良い天気だった。舘岩の北側には天然の入り江があった。この向こうに「賽の河原」とかいう名所があるらしいので、朝食後に向かうことにする。

 

f:id:ngcmw93:20221001154116j:image猫がいるゾーンの近くに飛島火力発電所があった。東北電力の施設。昨日キャッチボールをしたあたりにアパートが1,2件あったが、インフラ保守とかで本土から単身赴任で仕事に来ている人が少数いるのだろうか。あと、島内には9つもダムがあるらしい。飲料水の供給だったり、農業用水の貯水ようだったりするのだろう。

 

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f:id:ngcmw93:20221001155004j:image賽の河原を目指し、海辺を歩く。奇岩がたくさんある。何故か自転車を抱えて岩山から降りてきたおじさんがいて、挨拶すると「歩き、正解」と息も絶え絶えに言って面白かった。

f:id:ngcmw93:20221002090310j:imagef:id:ngcmw93:20221002090106j:image西側に浮かぶ無人島を眺めながら道を歩く。斜めに筋が入っている岩肌があった。柱状節理ってやつだろうか。途中でいい感じの棒を拾ったので旅の相棒とする。

 

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f:id:ngcmw93:20221002090641j:image港から30分くらい歩き、賽の河原に辿り着く。大きめの丸い石が積み上がっている。どんな意味があるかはよくわからない。近くにアマビエが掘られた白い石碑があった。最近作ったのだろう。

 

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f:id:ngcmw93:20221002090858j:imagef:id:ngcmw93:20221002090951j:image

島では自転車の無料貸し出しをやっており、鍵もかけずに置いてあって自由に借りられる。島の南西から北東まで一気に走って縦断した。自転車に乗るのは5年ぶりだった。めちゃくちゃ楽しい。漕ぐごとに加速して、風を全身に受ける。快晴の空の下で思い切りチャリを漕ぐのに夢中になるなんて、小学生に戻った気分だった。

法木という集落で海沿いの道は終わった。貝殻が落ちている白い砂浜を歩いてみる。東北にもこんな綺麗な砂浜があるんだな、と思う。

 

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f:id:ngcmw93:20221002091732j:imageあとは船に乗って帰るだけなので「とびしまマリンプラザ」に行って涼む。飛島カレーを食べて、ビールを飲んで締めた。離島でも生ビールは飲める。素晴らしいことだ。

 

f:id:ngcmw93:20221002092115j:imagef:id:ngcmw93:20221002092350j:imagef:id:ngcmw93:20221002092118j:image15:45の便で本土へ戻り、帰路についた。大満足の旅だった。特に目的もなく島に行き、散策したりキャッチボールしたりすることで得られる満足感がある。ずっと天気に恵まれたのも良かった。綺麗なボトルの芋焼酎を買って帰った。次はどの島に行こうか考えるのも楽しい。いつでも旅行の計画をしていたい。

 

 

 

 

 

飛島旅行記①

山形県唯一の有人島、飛島へ旅行に行ってきた。1泊2日の小旅行。

自分は離島が好きで、時々船で島へ行く。今回は1泊で行ける距離で、かつ1泊で観たい場所を全部見れそうな手頃な島、という点でここを選んだ。最近行った島の中でも外周約10キロと一番小さい。自分が離島に求める要素があって、とても満足度の高い旅行になった。

 

○ 1日目

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f:id:ngcmw93:20220923131012j:image飛島へは酒田港からフェリーに乗って渡る。その名も「とびしま」。所要時間は1時間半ほど。乗客は20人くらい。展望デッキに出ると秋田・山形の県境にある鳥海山がよく見える。富士山みたいな美しい形だ。

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船内ではKindleで『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んだ。とても面白い。大作の宇宙科学SF。主人公が科学教師なのが良い。『火星の人』と同じくユーモア多めの語り口ですらすらと読める。

15:00、飛島の勝浦港に到着。超大型の台風が沖縄あたりに迫っていたが接岸には特に影響はなかった。

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f:id:ngcmw93:20220923132015j:image船に積まれていた車がクレーンで荷下ろしされる。なかなか見ることのない光景だ。

 

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飛島は半月型の島だ。基本的に東側の海岸に集落や港などがある。とりあえず商店でビールを買い、宿に荷物を置かせてもらう。徒歩で散策に出る。本当にいい天気だった。右手に日本海、左手に民家が連なる防波堤沿いを歩いた。穏やかな海の上をゆったりと鳥が飛んでいて、なんとも長閑だ。

 

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とてもワクワクする入り口を見つけたので登る。5分ほど階段を上がったが行き止まりで何も無かった。津波の避難場所だったらしい。

 

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f:id:ngcmw93:20220925212049j:imageテキ穴洞窟に辿り着く。中はひんやりと涼しい。人がひとりやっと通れるくらいの狭さ。奥の岩壁の上の方にわずかな隙間がある場所があって、先が気になったがよく見えなかった。外の看板を見るとその隙間は「第2洞 詳細不明」とある。ワクワクする。まだ地図に書かれていない謎の空間があるとはロマンがある。

 

いい空き地を見つけたので、一緒に行った旅の相棒(バンドのドラマー)とキャッチボールをする。この旅行の最大の目的、離島でキャッチボールを達成した。このためにグローブを用意してきた。キャッチボールはとても楽しい。バシッといい感触で球を取れたときや、投げた球が狙い通りのところにいったときに、すごい快感がある。お金をかけずに、単純な動作でこんなに楽しくなれるなんて、素晴らしい遊びだ。小一時間くらいしっかりと動いて、かなり気持ち良かった。筋肉痛は2日後に来た。

 

f:id:ngcmw93:20221001142344j:image泊まった民宿の食事は海鮮づくしだった。かなり美味い。昼飯にイカ丼を食べ、大量のイカを摂取していたが夕飯にも出た。あと味噌汁もイカだった。しばらくイカは要らない気分だ。


f:id:ngcmw93:20221001142340j:image一服してたら路地がいい感じだった。街と呼べるほど店はないし人もあまりいないけど、離島にも生活があり、路地が発生している。巨人対阪神のナイターを観ながら酒を飲み、シーソーゲームの末に巨人が逆転勝ちしたので満足して寝た。今年の野球は本当に面白い。